養生訓178(巻第三 飲食 上)
夏月(かげつ)、瓜菓(うりかし)・生菜(せいさい)多く食ひ、冷麺(れいめん)をしばしば食し、冷水(れいすい)を多く飲めば、秋、必ず、瘧痢(ぎゃくり)を病(や)む。凡(およ)そ、病(やまい)は故(ゆえ)なくしてはおこらず。かねてつゝしむべし。食後に湯茶(ゆちゃ)を以(も)って口(くち)を数度(すうど)すゝぐべし。口中(こうちゅう)清(きょ)く、牙歯(がし)にはさまれる物(もの)脱(だっ)し去(さ)る。楊枝(ようじ)にてさす事を用ひず。夜は温(あたたか)なる塩茶(えんちゃ)を以って口をすゝぐべし。
牙歯堅固(がしけんご)になる。口をすゝぐには中下(ちゅうげ)の茶を用ゆべし。是、東坡(とうば)が説なり。
意訳
夏に、スイカや生の野菜を多く食べるたり、冷麺や冷たいものを多く飲めば、秋に必ず下痢を伴う発熱が出る病気になります。病気には、原因があるものです。予防が一番です。食後は、お茶で口をすすぎましょう。寝る前に、温かい塩茶で口をすすぎましょう。
通解
夏の季節には、スイカや生野菜を多く摂り、冷麺をよく食べ、冷たい水をたくさん飲むと、秋になると必ず瘧痢(ぎゃくり)という病気にかかることがあります。一般的に病気は何かの原因がなければ起こりません。予防策を常に心掛けることが大切です。食事の後に温かいお茶を口で数度すすぐことで、口内が清潔に保たれ、歯間に詰まった食べ物が取り除かれます。楊枝は使用せずに済ませましょう。夜には温かい塩茶で口をすすぐことで、歯が丈夫になります。口をすすぐ際には中下の濃いめの茶を用いるのが良いです。これは東坡(とうば)の説に基づくものです。
気づき
食後にお茶で口の中を濯ぐことは気軽に出来そうですね。
蘇東坡とは
蘇東坡(1037年1月8日 – 1101年8月24日)は、中国の北宋時代に生きた文学者、政治家、詩人で、多才な人物でした。彼は宋代を代表する文学の巨星であり、その作品は中国の文学史において非常に重要な位置を占めています。蘇東坡は政治的なキャリアも築きましたが、その才能と風変わりな性格が原因で何度か罰を受け、官職を剥奪されたりしました。彼は文学においても卓越した成果を上げ、詩、散文、書、詞など多岐にわたるジャンルで活躍しました。また、彼は書道でも知られており、自らが書いた「蘇文公書谱」は、中国の書道理論の古典とされています。蘇東坡は「東坡居士」とも呼ばれ、その文学的な遺産は後世の文人たちに多大な影響を与えました。