養生訓189(巻第四 飲食下)
一切(いっさい)の食、陰気の欝滞(うつたい)せる物は毒あり。くらふべからず。郷党篇(きょうとうへん)にいへる、聖人(せいじん)の食(しょく)し給はざる物、皆、陽気(ようき)を失(うしなえ)て陰物(いんぶつ)となれるなり。穀肉(こくにく)などふたをして時をへるは、陰鬱(いんうつ)の気にて味を変(かえ)ず。魚鳥の肉など久(ひさ)しく時をへたる、又、塩につけて久しくして、色(いろ)臭(におい)味(あじ)変(かえ)ず。是(これ)皆(みな)陽気(ようき)を失へる也。菜蔬(さいそ)など久しければ、生気(せいき)を失ひて味(あじ)変(かえ)ず。此如(かくのごとく)なるは皆(みな)陰物(いんぶつ)なり。腸胃(ちょうい)に害あり。又、害なきも補養(ほよう)をなさず。水など新(あらた)に汲(く)むは陽気(ようき)さかんにて、生気(せいき)あり。久しきを歴(ふ)れば陰物(いんぶつ)となり、生気(せいき)を失(うし)なふ。一切(いつさい)の飲食、生気(せいき)を失ひて、味と臭(におい)と色と、少しにても、かはりたるは食ふべからず。ほして色かはりたると、塩に浸(した)して、不損(ふそん)とは、陰物にあらず食(くら)ふに害なし。然(しかれ)ども、乾物(ほしもの)の気のぬけたると、塩蔵(えんぞう)の久して、色臭(くさく)味変(へん)じたるも皆(みな)陰物(いんぶつ)也。食(くらう)ふべからず。
意訳
日にちが経って、「もしかしたら、悪くなっているかも」と感じたときは食べるのを止めておいた方が良いでしょう。昔の聖人は、このようなものは、食べなかったと論語にも書いてあります。このことは野菜や肉類も同じです。
通解
すべての食べ物の中で、陰気によって欝滞が起こるものは毒を含んでいます。これらは避けるべきです。『郷党篇』にも、陰気をため込んで陰性のものになるものは聖人は食しないとあります。例えば、穀物や肉を長時間煮ることは陰気によって味が変わります。魚や鳥の肉も長期間の保存、塩漬けにすることなどで色や臭い、味が変わります。これらの変化はすべて陰気によるもので、腸胃に害をもたらす可能性があります。また、害のないものでも生気を失っており、補養の役割を果たしません。
新しく汲んだ水は生気があり、陽気がたくさん含まれています。しかし、長時間たつと陰物となり、生気を失います。全ての飲食物は生気を失って味や臭い、色がわずかであっても変化する場合、食べてはいけません。ただし、色や臭いが残っている場合でも、それを塩に浸けても害はありません。しかし、乾物が風味を失い、塩蔵によって色や臭い、味が変わる場合、これらも陰物とされ、摂取すべきではありません。
気づき
現代の食生活にも応用出来るかも知れませんね。