養生訓86

「人の身をたもつには、養生の道をたのむべし。針灸(しんきゅう)と薬力(やくりょく)とをたのむべからず。
人の身には口腹耳目(こうふくじもく)の欲ありて、身をせむるもの多し。古人(こじん)のをしえに、養生のいたれる法あり。
孟子(もうし)にいはゆる「慾を寡(すくな)くする」、これなり。宋の王昭素(おうしょうそ)も、「身を養ふ事は慾を寡(すくなく)するにしくはなし」と云。省心録(せいしんろく)にも、「慾多ければ即ち生(せい)を傷(やぶ)る」といへり。
およそ人のやまひは、皆わが身の慾をほしゐままにして、つつしまざるよりおこる。養生の士(し)はつねに、これを戒(いましめ)とすべし。」

意訳

健康を保つ為には、むやみにに薬に頼らないがよいでしょう。日頃の養生が大切です。
では、その養生とは何か。それは、欲を少なくすることです。孟子も、同じような事を言っています。
およその病気は、欲のままに生きることによって生じます。養生に健康を求める人は、これを、いつも心に留めて置きましょう。

通解

自分の健康を保つためには、養生の方法を求めるべきです。針灸や薬物の力を頼るべきではありません。人間の身体は、口や腹、耳、目などの欲望を抱えており、自制心を欠いて身を損なう事が多いです。
古の諺や格言にもあります。
孟子は「慾を寡(すくな)くする」ことが養生の方法であると述べています。
宋の王昭素も「身を養うためには慾望を抑えることが重要である」と語っています。
『省心録』にも「慾望が多いと生命を傷つける」ということが記されています。人々の病気や不調は、ほとんどが自分の欲望を制御せずに行動することから起こります。養生を心がける人は常に、これを戒めとして守るべきです。

気づき

何事も意識して継続すれば、それが習慣となり、苦痛ではなくなると聞いたことがありますね。

孟子とは

孟子(Mencius、紀元前372年 – 紀元前289年)は、古代中国の儒家哲学者であり、儒教の主要な思想家の一人です。

孟子の主要な思想の要点は次のようなものです。

人性の善: 孟子は人間の本性は善であると信じており、善の根源が心の中にあると考えました。彼は人間に内在する善性を引き出し、育てることが重要であると強調しました。

仁愛と道徳: 孟子は仁という概念を中心に、道徳的な価値観を強調しました。仁は他者への思いやりや愛情を意味し、社会的な調和と倫理的な行動の基盤として重要視されました。

君子の立場: 孟子は君子と呼ばれる道徳的に優れた人物の理想を提唱しました。
君子は仁を実践し、徳の高い個人であり、政府や社会においてリーダーシップを発揮する存在とされました。

王道政治: 孟子は良い統治と社会の平和を重視し、君主に対して人民の利益を最優先に考えるべきだと説きました。彼は王道と呼ばれる政治理念を提唱し、君主には仁や道徳を持って国を治めるべきだと主張しました。

孟子の思想は、儒教の中でも重要な位置を占めており、中国の歴史と文化に深い影響を与えました。彼の教えは後の儒家思想や中国哲学において大きな影響力を持ち、儒教の伝統を継承し、発展させた一人として尊重されています。

 


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