養生訓49(巻第一総論上)

「いにしへの人、三慾(さんよく) を、忍(しの)ぶ事をいへり。
三慾とは、飲食の欲、色(しき)の欲、睡(ねぶり)の欲なり。
飲食を節にし、色慾(しきよく)をつつしみ、睡(ねぶり)をすくなくするは、皆(みな)慾をこらゆるなり。飲食・色欲を、つつしむ事は人しれり。
只(ただ)睡(ねぶり)の慾をこらえて、いぬる事を、すくなくするが、養生の道なる事は、人しらず。
ねぶりをすくなくすれば、無病になるは、元気めぐりやすきが故(ゆえ)也(なり)。
ねぶり多ければ、元気めぐらずして病(やまい)となる。
夜(よ) ふけて臥(ふ)し、ねぶるはよし、昼(ひる)いぬるは尤(もっとも)害あり。」
ことに、朝夕飲食のいまだ消化せず、其(その)気、いまだ、めぐらざるに、早く、いぬれば、飲食とどこほりて、元気をそこなふ。古人(こじん)睡慾(すいよく)を以(もって)、飲食・色慾に、ならべて三慾とする事、むべなるかな。
おこたりて、ねぶりを好(この)めば、くせになりて、睡(ねぶり)多くして、こらえがたし。ねぶり、こらえがたき事も、又、飲食・色慾と同じ。初(はじめ)は、つよくこらえざれば、ふせぎがたし。つとめて、ねぶりをすくなくし、ならひて、なれぬれば、おのづから、ねぶりすくなし。ならひて睡(ねぶり)をすくなくすべし。

意訳

昔から、食べること、性のこと、睡眠は、ほどほどが良いと云われています。食べることと、性のことはだいたいの人が知っていますが、睡眠のことはあまり知られていません。あまり寝過ごしすのも身体に良くありません。

通解

古代の人々は、三つの欲望、すなわち飲食の欲望、性への欲望、そして睡眠への欲望を制御することを重んじていました。

飲食の欲望を節制し、性への欲望を適度にすることは広く知られていますが睡眠の欲望を制御することを養生の道とされていることはあまり知られていません。

睡眠の欲望を抑えることで健康を保ちつつ病気を予防することができます。睡眠時間が過度に長いと元気の循環が悪くなり病気の原因になります。特に昼間に長時間眠ることは有害であり、夜に早く寝て朝早く起きることが望ましいとされています。

朝夕に飲食を過度に摂取し、その消化が十分に行われず、体内の気(エネルギー)がうまく循環しない状態で早く寝ると、飲食と気が共に体内に滞留し元気を害してしまう可能性があります。過度な睡眠は慎みましょう。