養生訓71,72

「いにしへの人、三慾(さんよく) を、忍(しの)ぶ事をいへり。
三慾とは、飲食の欲、色(しき)の欲、睡(ねぶり)の欲なり。
飲食を節にし、色慾(しきよく)をつつしみ、睡(ねぶり)をすくなくするは、皆(みな)慾をこらゆるなり。飲食・色欲を、つつしむ事は人しれり。
只(ただ)睡(ねぶり)の慾をこらえて、いぬる事を、すくなくするが、養生の道なる事は、人しらず。
ねぶりをすくなくすれば、無病になるは、元気めぐりやすきが故(ゆえ)也(なり)。
ねぶり多ければ、元気めぐらずして病(やまい)となる。
夜(よ) ふけて臥(ふ)し、ねぶるはよし、昼(ひる)いぬるは尤(もっとも)害あり。」
ことに、朝夕飲食のいまだ消化せず、其(その)気、いまだ、めぐらざるに、早く、いぬれば、飲食とどこほりて、元気をそこなふ。古人(こじん)睡慾(すいよく)を以(もって)、飲食・色慾に、ならべて三慾とする事、むべなるかな。
おこたりて、ねぶりを好(この)めば、くせになりて、睡(ねぶり)多くして、こらえがたし。ねぶり、こらえがたき事も、又、飲食・色慾と同じ。初(はじめ)は、つよくこらえざれば、ふせぎがたし。つとめて、ねぶりをすくなくし、ならひて、なれぬれば、おのづから、ねぶりすくなし。ならひて睡(ねぶり)をすくなくすべし。

意訳

昔から、食べること、性のこと、睡眠は、ほどほどが良いと云われています。食べることと、性のことはだいたいの人が知っていますが、睡眠のことはあまり知られていません。あまり寝過ごしすのも身体に良くありません。

通解

古代の人々は、三つの欲望、すなわち飲食の欲望、色への欲望、そして睡眠への欲望を制御することを重んじていました。

飲食の欲望を節制し、色への欲望を控え、睡眠を適度にすることは、すべて欲望を抑えることです。飲食と色への欲望を抑えることは、広く知られていますが、特に睡眠の欲望を制御することが養生の道とされていたことは、あまり知られていないかもしれません。

睡眠の欲望を抑えることで、健康を保ちつつ病気を予防することができます。睡眠時間が過度に長いと、元気の循環が悪くなり、病気の原因になります。特に昼間に長時間眠ることは有害であり、夜に早く寝て朝早く起きることが望ましいとされています。

朝夕に飲食を過度に摂取し、その消化が十分に行われず、体内の気(エネルギー)がうまく循環しない状態で早く寝ると、飲食と気が共に体内に滞留し、元気を害してしまう可能性があります。

古代の人々は、飲食・色慾・睡慾を三つとも欲望と捉え、その制御が重要であると考えていました。また、怠けて睡眠を多くすることは習慣になり、過剰な睡眠は抑えにくくなります。睡眠も飲食や色への欲望と同じく、最初は頑強に制御しなければ抑えることが難しいものです。努力して睡眠を適切にし、習慣化すれば、自然に睡眠が適切な量になるよう心がけるべきです。

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