養生訓47

「凡(およそ)薬と鍼灸(しんきゅう)を用るは、やむ事を得ざる下策なり。飲食・色慾を慎しみ、起臥(きが)を時にして、養生を、よくすれば病なし。
腹中の痞満(ひまん)して、食気つかゆる人も、朝夕歩行し、身を労動して、久坐久臥(きゅうざ きゅうが)を禁ぜば、薬と針灸とを用ひずして、痞塞(ひそく)のうれひなかるべし。是、上策とす。
薬は皆気の偏(へん)なり。参茋朮甘(さんきつじゅつかん)の上薬といへども、其(その)病に応ぜざれば害あり。
況(いわんや)、中・下の薬は元気を損じ他病(たびょう)を生ず。
鍼(はり)は瀉(しゃ)ありて補(ほ)なし。
病に応ぜざれば元気をへらす。
灸もその病に応ぜざるに妄(みだりに)に灸すれば、元気をへらし気を上す。
薬と針灸と、損益ある事かくのごとし。やむ事を得ざるに非ずんば、鍼・灸・薬を用ゆべからず。只、保生(ほしょう)の術を頼むべし。」

意訳

薬を使うのは、あまり良い方法ではないです。
日頃から生活習慣を守り、養生すれば病は少ないはずです。
例えば、だらだらせず、運動すれば、薬を使う必要がないのです。
これが、一番良い方法なのです。
どんなよい薬でも、副作用はあります。その副作用で他の病気になることもあるのです。だから、日頃から、病気に強い身体を作ることが大切です。
それには、ただ偏に、養生の術を行うことが肝要です。

通解

薬と鍼灸を使用するのは、やむを得ない場合の最後の手段です。飲食や色欲を慎み、起床と就寝の時間を適切にし、養生をよく行えば病気を予防できます。

腹に痞満(胃が膨れて不快な感じ)がある場合でも、朝夕に歩行し、身体を動かして久しく座ったり寝たりしないようにすれば、薬や針灸を使わずに痞塞(消化不良)の苦痛を和らげることができるでしょう。これが上策です。

薬はすべて気の偏りがあります。参茋朮甘のような上質の薬でも、その病気に合わなければ害を及ぼすことがあります。ましてや中・下の薬は元気を損ない他の病気を引き起こす可能性があります。

鍼は瀉(排泄)と補(補充)があります。病気に合わせて適切な方法を取らなければ元気を減じてしまいます。同様に灸もその病気に合わせないで無理に行えば元気を減じ、気を上へと駆り立てます。

薬と針灸は利益と損失があるものです。やむを得ない場合でなければ、鍼・灸・薬を用いるべきではありません。代わりに保生の術を頼ることが大切です。

「起臥(きが)」とは

「起臥(きが)」は、日本語で「起きること」と「寝ること」を指す言葉です。この言葉は、日常生活での起床と就寝を表現する際に使用されます。一般的に、以下のような文脈で使われます:

起床: 「起臥」は朝に目を覚ますこと、つまり起床することを指します。朝、ベッドから出て一日の活動を開始する行為を表現するために使われます。

就寝: 一方、「起臥」は夜に寝ること、つまり就寝することも指します。夜、ベッドに入って休息を取る行為を表現する際にも使われます。

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