養生訓394(巻第八 灸法)

阿是(あぜ)の穴は、身の中、いずれの処にても、灸穴(きゅうけつ)に、かゝはらず、おして見るに、つよく痛む所あり。是、その灸すべき穴なり。是を阿是 (あぜ) の穴と云(いう)。人の居る処の地によりて、深山幽谷(しんざんゆうこく)の内、山嵐(やまあらし)の瘴気(しょうき)、或は、海辺陰湿(かいへんいんしつ)ふかき処ありて、地気(ちき)に、あてられ、病おこり、もしは、死いたる。或(あるいは)疫病(やくびょう)、温瘧(おんぎゃく)、流行する時、かねて此穴を、数壮、灸して、寒湿(かんしつ)をふせぎ、時気(じき)に感ずべからず。灸瘡(きゅうそう)に、たえざる程に、時々、少(すこし)づゝ灸すれば、外邪おかさず、但(ただし)禁灸(きんきゅう)の穴をば、さくべし。一処(ひとところ)に多く灸、すべからず。今の世に、天枢脾兪(てんすうひのゆ)など、一時に多く灸すれば、気升(きのぼ)りて、痛(いたみ)忍(こら)へがたきとて、一日一二荘、毎日灸して、百壮に、いたる人あり。又、三里を、毎日一壮づゝ百日づゝけ、灸する人あり。是亦、時気(じき)をふせぎ、風を退(しりぞ)け、上気を下し、衂(はなぢ)をとめ、眼を明(あきらか)にし、胃気をひらき、食をすゝむ。尤(もっとも)益ありと云(いう)。医書において、いまだ此法を見ず。されども、試みて其(その)効(しるし)を得たる人、多しと云。

通解

阿是(あぜ)の穴は、身体のどの部位でも灸穴として用いることができますが、押してみると強く痛む箇所があります。それが阿是の穴と呼ばれるものです。阿是の穴は、山間の深い谷間や山嵐が吹き荒れる地域、または海辺の湿気の多い場所など、地気によって影響を受けやすく、病気や死に至ることもあります。疫病や温瘧、流行病が広まる時には、予めこの穴を数回灸して寒湿を避け、気候に感染しないようにするべきです。

灸瘡が持続する程度で、時々少しずつ灸を行えば、外邪を防ぎ、ただし禁じられた穴を刺激しません。一つの場所に多くの灸をすることは避けるべきです。現代でも、「天枢脾兪」と呼ばれる穴を一度に多く灸すると、痛みに耐え難くなり、一日に1〜2回の灸を毎日行い、百回灸する人がいます。また、三里という穴を毎日1回ずつ百日間灸する人もいます。これは時気を避け、風邪を退け、上気を下げ、鼻血を止め、目を明るくし、胃の働きを活性化し、食欲を増進させる効果があると言われています。

医学書にはまだこの方法が見られないかもしれませんが、試してその効果を得た人は多いと言われています。