養生訓391(巻第八 灸法)
艾炷(がいちゅう)の大小は、各、其人(そのひと)の強弱によるべし。壮(さかん)なる人は、大なるがよし、壮数(そうすう)も、さかんなる人は、多きによろし。虚弱(きょじゃく)に、やせたる人は、小にして、こらへやすくすべし。多少は所によるべし。熱痛(ねつつう)をこらゑがたき人は、多くすべからず。大にして、こらへがたきは、気血をへらし、気をのぼせて、甚(はなはだ)害あり。やせて虚怯(きょこう)なる人、灸のはじめ、熱痛(ねっつう)をこらへがたきには、艾炷(がいちゅう)の下に塩水を多く付(つけ)、或(あるいは)塩のりをつけて五七壮、灸し、其後、常の如くすべし。此如すれば、こらへやすし。猶(なお)も、こらへがたきは、初(はじめ)五六壮は、艾(がい)を早く去(さる)べし。此如すれば、後の灸こらへやすし。気(き)升(のぼ)る人は一時に多くすべからず。明堂灸経(めいどうきゅうけい)に、頭(あたま)と四肢(しし)とに多く、灸すべからずといへり、肌肉(きにく)うすき故也。又、頭と面上(めんじょう)と四肢に灸せば、小(ちいさ)きなるに宜(うべ)し。灸に用る火は、水晶を天日(てんぴ)にかゞやかし、艾(がい)を以(もって)下に、うけて火を取べし。又、燧(ひうち)を以、白石或(あるいは)水晶を打て、火を出すべし。火を取て後、香油(こうゆ)を燈(ともしび)に点(てん)じて、艾炷(がいちゅう) に、其、燈(ともしび)の火をつくべし。或、香油にて、紙燭(しそく)を、ともして、灸炷(きゅうちゅう)を先(まず)身につけ置て、しそくの火を付(つ)くべし。松(まつ)、栢(かしわ)、枳(きこく)、橘(みかん)、楡(にれ)、棗(なつめ)、桑(くわ)、竹(たけ)、此、八木の火を忌(いむ)べし。用ゆべからず。
養生訓(意訳)
お灸の大きさや量は、その人の身体の強弱、体質により加減したほうが良いでしょう。
通解
艾炷(がいちゅう)の大きさは、個々の人の体力や強さによって異なります。体力のある人は大きなものを使うべきであり、体力が多い人は数を増やすことが適しています。虚弱でやせている人は小さなものを使用し、刺激を控えめにするべきです。ただし、個人の状態によって異なる場合もあります。熱や痛みを強く感じる人は、多くの灸を用いるべきではありません。大きな灸を使い過ぎると、気血を減らし、体内の気を上昇させてしまい、害を及ぼす可能性があります。
やせて虚弱な人で、灸を初めて行う場合、熱や痛みを強く感じる場合には、艾炷の下に塩水を多く付けるか、塩のりをつけてから5〜7回灸し、その後は通常通り行うべきです。これにより、刺激を抑えることができます。また、初めの5〜6回の灸は、艾炷を早く取り除くべきです。これにより、後続の灸が刺激を控えめにすることができます。
気が上昇する人は一度に多くの灸を行うべきではありません。『明堂灸経』では、頭と四肢に多くの灸をするべきではないと述べています。皮膚と筋肉が薄いためです。また、頭部や顔面、四肢に灸を行う場合は、小さなものを使用することが適しています。
灸に使用する火は、水晶を天日に晒してから、艾炷の下に置き、そこから火を取るべきです。また、火を起こす際には、打ち火石や白石、水晶を使用することができます。火を取った後は、香油を灯に点火し、それを使って艾炷の火をつけるべきです。または、香油を使って紙燭を点火し、灸炷を先に身につけ、紙燭の火をつけることもできます。松や栢、枳、橘、楡、棗、桑、竹などは、火を忌むべき木材ですので、使用しないでください。