養生訓17(巻第一総論上)

「人の元気は、もと是(これ) 天地の万物を生ずる気なり。
是、人身の根本なり。
人、此(これ) 気にあらざれば生ぜず。生じて後は、飲食、衣服、居処(きょしょ)の外物(がいぶつ)の助(たすけ)によりて、元気養はれて命をたもつ。
飲食、衣服、居処(きょしょ)の類も、亦、天地の生ずる所なり。
生るるも養はるるも、皆(みな)天地父母の恩なり。
外物を用(もちい)て、元気の養とする所の飲食などを、かろく用ひて過さざれば、生付(うまれつき)たる内の元気を養ひて、いのちながくして天年を、たもつ。
もし、外物の養をおもくし過せば、内(うち)の元気、もし外(そと)の養にまけて病となる。病おもくして元気つくれば死す。たとへば、草木に水と肥(こえ)との養を過(すご)せば、かじけて枯るるがごとし。
故に、人ただ心の内の楽を求めて、飲食などの外の養をかろくすべし。外の養おもければ、内の元気損ず。」

意訳

人の生命力は、自然界のエネルギーと同じです。
だから、自然界の助けによって生きているのです。
人の身体は自然界から養分をもらっているから、過度に摂り過ぎれば病気になるのです。
例えば、草木に水や肥料をやり過ぎれば枯れてしまうようなものです。
だから、心の充実感を求めて、過食の楽しみを控えることが健康のためなのです。

通解

「人の元気は、元々天地の万物を生み出す気から成り立っています。この気こそが人の身体の根本です。人はこの気があれば生きることができ生まれた後は、飲食・衣服・住居などの外的な物質によって元気を養い命を維持します。飲食・衣服・住居のような外的なものも、又、天地が生み出すものです。生まれることも養われることも、すべては天地である親である神の恩寵です。
外的な物質を用いて元気を養うためには飲食などを適度に摂取して過ごす必要があります。
それによって、生まれつき持っている内なる元気を養い、長寿を保つことができるのです。逆に、外的な物質の養いを過度にしすぎると内なる元気が失われ病気にかかってしまいます。
病気が深刻になり元気が回復しない場合は死に至ることもあります。まるで草木が水と肥料を過剰に与えられると枯れてしまうように。
だから、人は心の内にある喜びを求め飲食など外的な養いを適度にするべきです。
外的な養いに固執しすぎると内なる元気が損なわれてしまいます。」