養生訓387(巻第八 育幼)
小児をそだつるは、三分の飢と寒とを存(そん)すべしと、古人いへり。いふ意(こころ)は、小児はすこし、うやし、少ひやすべしとなり。小児にかぎらず、大人も亦、かくの如くすべし。小児に、味よき食に、あかしめ(飽)、きぬ多くきせて、あたゝめ過(すご)すは、大にわざはひとなる。俗人と婦人は、理にくらくして、子を養ふ道をしらず、只、あくまで、うまき物をくはせ、きぬあつくきせ、あたゝめ過(すご)すゆへ、必(かならず)病多く、或(あるいは)命短(いのちみじか)し。貧家の子は、衣食(いしょく)、ともしき故、無病にして、いのち長し。
養生訓(意訳)
子供を育てる極意は、「三分の飢えと少しの寒さ」と昔の人は言っています。子供を過保護に育てると後の禍となります。昔から、貧家の子は無病で長生きと云われています。これは子供に限ったことではありません。
通解
古人は言いました。「小児を育てるには、三分の飢えと寒さを存すべし」と。つまり、小児は少し飢えさせて、少し寒さを感じさせることが良いとされています。この意味は、小児だけでなく大人も同様です。小児には、味の良い食事を適量与え、過度に温かくしたり、過保護に育てることは好ましくありません。俗人や婦人は、理性に欠けており、子を養う道を知らず、ただ食べ物を与え、温かくし、過保護にするだけであり、必ずしも病気が多くなり、命が短くなることがあります。貧しい家庭の子供は、食事ともに質素なため、病気のないままで長生きすることがあります。