養生訓381(巻第八 養老)
年(とし)老(おい)ては、やうやく事を、はぶきて、すくなくすべし。事をこのみて、おほくすべからず。このむ事、しげゝれば、事多し。事多ければ、心気つかれて楽(たのしみ)をうしなふ。朱子(しゅし)六十八歳、其子に与ふる書に、衰病(すいびょう)の人、多くは飲食過度によりて、病(やまい)くはゝる。殊に、肉(にく)多く食するは害あり。朝夕、肉は只一種、少食すべし。多くは食(くら)ふべからず。あつものに肉あらば、飣(さい)に肉なきがよし。晩食(ばんしょく)には、肉なきが尤(もっとも)よし。肉の数(かず)、多く重ぬるは滞(とどこお)りて害あり。肉をすくなくするは、一には胃(い)を寛(ひろ)くして、気を養ひ、一には用を節(せつ)にして、財を養ふといへり。朱子の此言、養生に、せつなり。わかき人も此如すべし。
養生訓(意訳)
老後の生活は、煩わしいことは、だんだん少なくすべきです。その分、疲れて楽しいことをする時間が減るからです。ただ、楽しいことを食に求めることは、注意すべきです。
通解
年をとると、慎重に事を選び、少なくすることが重要です。欲望にとらわれて多くのことを求めるべきではありません。欲しいと思うことが増えると、事が多くなります。事が多いと心が疲れ、楽しみを失います。朱子は六十八歳のとき、自分の子に与えた書で、老いた人々の多くは飲食の過剰によって病気になると書いています。特に肉を多く食べることは害があります。朝と夕方には肉は一種類だけで、少量にとどめるべきです。多くの量を食べるべきではありません。熱い料理に肉が含まれている場合は、肉を避けるべきです。夕食には肉を避けることが特に良いです。肉の量が多くて重たいと、消化不良を起こし害があります。肉を少なくすることは、まずは胃を楽にして気を養い、そして節制することで財を節約する助けとなります。朱子の言葉は健康を養うために重要です。若い人もこのようにすべきです。