養生訓379(巻第八 養老)
老人は、気よはし。万(よろず)の事、用心ふかくすべし。すでに、其事にのぞみても、わが身をかへりみて、気力の及びがたき事は、なすべからず。とし下寿(かじゅ)をこゑ(え)、七そぢにいたりては、一とせをこゆるも、いとかたき事になん。此ころにいたりては、一とせの間にも、気体のおとろへ、時々に変りゆく事、わかき時、数年を過るよりも、猶(なお)はなはだ、けぢめあらはなり。かく、おとろへゆく老(おい)の身(み)なれば、よく、やしなはずんば、よはひを、久しく、たもちがたかるべし。又、此としごろにいたりては、一とせをふる事、わかき時、一二月を過(すぐ)るよりも、はやし。おほからぬ余命をもちて、かく年月早くたちぬれば、此後のよはひ、いく程も、なからん事を思ふべし。人の子たらん者、此時、心を用ひずして孝をつくさず、むなしく過なん事、おろかなるかな。
養生訓(意訳)
高齢になれば、当然、気力も衰えます。計画を立てていても体調に異変を感じたら止める勇気も必要です。
通解
老人は気力が衰えています。あらゆることに注意深く用心する必要があります。もしもすでにそのことに取り組もうとしても、自分自身を振り返り、気力が及び難いことは避けるべきです。70歳や80歳になると、1年が過ぎるのも非常に困難なことです。この時期になると、1年の間でも気力が次第に衰え、時々変動することがよくあります。若い時期よりも数年を過ごす間に比べて、その差は非常に顕著です。このように気力が衰えていく老人の身であれば、よく気をつけて体を養い、長く保たなければなりません。また、この年齢になると、1年が過ぎるのが早いです。若い時期に比べて1、2か月が過ぎるのも早く感じられます。限られた余命を持っている以上、これからの大切さを考えるべきです。人の子として、この時期に心を使わずに孝行を怠り、無駄に過ごすことは愚かなことです。