養生訓371(巻第八 養老)
人の子となりては、其(その)おやを養ふ道をしらずんばあるべからず。其心を楽しましめ、其心にそむかず、いからしめず、うれへしめず。其時の寒暑(かんしょ)にしたがひ、其居室(そのきょしつ)其祢所(そのねどころ)をやすくし、其飲食を味よくして、まことを以て養ふべし。老人は、体気おとろへ、胃腸よは(わ)し。つねに小児を養ふごとく、心を用ゆ(ふ)べし。飲食のこのみ、きらひをたづね、其(その)寒温(かんおん)の宜(よろし)きをこゝろみ、居室(しょしつ)をいさぎよくし、風雨(ふうう)をふせぎ、冬あたゝかに、夏涼(すず)しくし、風寒暑湿の邪気(じゃき)をよく防(ふせ)ぎて、おかさしめず、つねに心を安楽ならしむべし。盗賊(とうぞく)水火の不意なる変災(へんさい)あらば、先(まず)両親を驚(おどろ)かしめず、早く介保(かいほう)し出(いだ)すべし。変にあひて、病おこらざるやうに、心づかひ有べし。老人は、驚けば病おこる。おそるべし。
養生訓(要約)
老後の生活については、若い時に比べ体力も内臓も弱くなっているので、ストレスの少ない快適な生活環境を整えましょう。
通解
人の子であれば、、親を養う方法を知らなければなりません。親を楽しませ、心に逆らわず、悲しませず、喜ばせません。寒暑の時には親の居室や休む場所を快適にし、飲食を美味しくし、誠実に親を養いましょう。
老人は体力が衰え、胃腸の調子も悪くなります。常に子供を育てるように心を使いましょう。飲食の好みを尋ね、寒さや温度の適切さを気遣い、居室を清潔に保ち、風雨を防ぎ、冬は温かく、夏は涼しくしましょう。風や寒暑、湿気の邪気からしっかりと身を守り、病気にならないように心を安らかに保ちましょう。
万が一、盗賊や火災などの突然の災害が起きた場合、まずは両親を驚かせずに早く避難させましょう。不意に病気が起きないように心を配りましょう。老人は驚かされると病気になりやすいので、注意が必要です。
親との関係を大切にし、心を使いながら養っていくことが重要です。常に敬意を持ち、感謝の気持ちを忘れずに、親孝行を心がけましょう。