養生訓10(巻第一総論上)
「園(その)に,草木(そうもく)を、うへて愛する人は、朝夕(あさゆう)心にかけて、水をそそぎ土をかひ、肥(こえ)をし、虫を去(さり)て、よく養ひ、其(その)さかえを悦び、衰(おとろ)へをうれふ。草木(そうもく)は至(いた)りて軽(かろ)し。わが身は至りて重(おも)し。
豈(あに)我身を愛する事、草木にも、しかざるべきや。思はざる事、甚(いたりな)し。
夫(それ)養生の術をしりて行なふ事、天地父母につかへて孝をなし、次には、わが身、長生安楽(ちょうせいあんらく)のためなれば、不急(ふきゅう)なる、つとめは先(まず)さし置(おき)て、わかき時より、はやく此術(このじゅつ)をまなぶべし。
身を慎(つつし)み生(せい)を養ふは、是(これ)人間第一のおもくすべき事の至(いたり)也(なり)。」
意訳
園芸を楽しむ人は、庭に草木を植えて、朝に夕に水をやり、肥料を与え、防虫まで気を使い、その栄える姿を喜び、枯れれば悲しみます。
草木にさえ、このように大切にします。
ましてや、自分の身体は、草木以上に大切なはずです。
人生の中で健康で長生きすることが一番重要なことではないでしょうか。
このことに若い時から気づき、養生の知恵を学んでいきましょう。
まずは健康です。このことを人生の第一義に考え、毎日を生活することが大切でしょう。
通解
園に植物を育てることを愛する人は、朝と夕方、心を込めて水をやり土を耕し、肥料を施し、害虫を取り除き、しっかりと育てます。
その植物の成長を喜び、衰えを悲しむでしょう。植物は軽いものですが、私たちの身体は重いものです。
だからこそ、私たちは植物のように自分の身体を愛し過ぎてはなりません。
無駄なことを考えず、養生の術を学び、天地や両親に感謝し、次に自分自身のために長い健康で快適な生活を送るために努力することが重要です。
無駄なことに時間を使わず、若い時から早くこの術を学び取ることが人生において最も重要なことです。
身体を大切にし、養生を行うことは、人間にとって第一に優先すべきことです。
「不急(ふきゅう)」とは
「不急(ふきゅう)」という言葉は「急を要しない」「緊急でない」といった意味を持つ形容詞です。主に次のような文脈で使われます:
不急の用事(ふきゅうのようじ):緊急性がなく、後回しにできる用事やタスクを指します。例えば、仕事や日常生活において、不急のメールを後で返信することができるなど、緊急性の低いものです。
不急の外出(ふきゅうのがいしゅつ):特に災害や緊急事態が発生した際に、避難命令や外出自粛要請が出された場合、不急の外出を避けるよう呼びかけられることがあります。この場合、急な外出や非常に必要な外出以外は控えるべきという意味です。
このように、「不急」は何かの行動や事柄が急を要しない、あるいは緊急性が低いという意味を表す言葉です。
気づき
人は、大きな病気を経験すると健康の大切さが分かるとも言います。しかし、生活習慣病のような長い期間をかけて身体を蝕む病は、気づくのが遅くなる場合もあります。
日頃から、自分の健康状態を確認することも必要でしょうね。