養生訓377

宋(そう)の沈存中(しんぞんちゅう)が筆談(ひつだん)と云(いう) 書(しょ)に曰(いわく) 、近世(きんせ)は湯を用ずして煮散(しゃさん)を用ゆといへり。然(しか)れば、中夏(ちゅうか) には、此法(このほう)を用るなるべし。煮散(しゃさん)の事、筆談(ひつだん)に其法(そのほう)詳(つまびらか)ならず。煮散(しゃさん)は薬を麁末(そまつ)とし、細布(さいふ)の薬袋(やくぶくろ)のひろきに入(いれ)、熱湯(ねっとう)の沸上(わきあが)る時、薬袋を入(い)れ、しばらく煮て、薬汁(やくじる)出たる時、早く取り上げ用(もちい)るなるべし。麁末(そまつ)の散薬(さんやく)を煎ずる故、煮散(しゃさん)と名づけしにや。薬汁(やくじる)早く出(いでて)、早く取上げ、にゑ(え)ばなを服する故、薬力つよし。煎じ過(すご)せば、薬力よはく成(なり)てしるしなり。此法、利湯(りとう)を煎じて、薬力つよかるべし。補薬(ほやく)には此法(このほう)用いがたし。煮散(しゃさん)の法、他書(たしょ)においてはいまだ見ず。甘草(かんぞう)をも、今の俗医(ぞくい)、中夏の十分一(じゅうぶんのいち)用(もち)ゆるは、あまり小(しょう)にして、他薬(たやく)の助(たすけ)となりがたかるべし。せめて方書(ほうしょ)に用たる分量の五分一(ごぶんのいち)用(もちう)べしと云人あり。此言(このげん)、むべなるかな。人くわへ用ゆべし。日本の人は、中華の人より体気薄弱(たいきはくじゃく)にして、純補(じゅんぽ)をうけがたし。甘草(かんぞう)、棗(あんず)など斟酌(しんしゃく)すべし。李中梓(りちゅうし)が曰(ごとく)、甘草(かんぞう)性(せい)緩(かん)なり。多く用(もち)ゆべからず。一は、甘(あま)きは、よく脹(ちょう)をなすをおそる。一(ひとつ)は、薬餌(やくじ)功(こう)なきをおそる。是(これ)甘草(かんぞう)多ければ、一は気をふさぎて、つかえやすく、一は、薬力よはくなる故なり。

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