養生訓348(巻第七 用薬)

世俗(せぞく)には、振薬(ふりやく)とて、薬を袋に入て熱湯(ねっとう)につけて、箸(はし)にて、はさみ、しきりにふりうごかし、薬汁を出して服(ふく)す。是は、自然に薬汁(やくじゅる)出(いず)るにあらず。しきりにふり出す故、薬湯(やくとう)にごり、薬力(やくりき)滞(とどこおり)やすし。補薬(ほやく)は、常(つね)の煎法(せんぽう)の如く、煎じ熟(じゅく)すべし。泡薬(ほうやく)に宜(よろし)からず。凡(およそ)煎薬(せんやく)を入る袋は、あらき布(ぬの)はあしゝ。薬末(やくまつ)もりて薬汁(やくじゅる)にごれば、滞(とどこお)りやすし。もろこしの書にて、泡薬(ほうやく)の事いまだ見ずといへども、今の時宜(じぎ)によりて、用(もちい)るも可(か)也。古法(こほう)にあらずしても、時宜(じぎ)よくかなはゞ用(もち)ゆべし。頤生微論(いせいびろん)に曰(いわく)、「大抵散利(たいていさんり)の剤(ざい)は生(なま)に宜(よし)。補養(ほよう)の剤は熱(ねつ)に宜(よし)」。入門に曰(いわく)、「補湯(ほとう)は熟(じゅく)を用須(ようす)。利薬(りやく)は生(なま)を嫌(きら)はず」。此法(このほう)、薬を煎(せん)ずる要訣(けつ)なり。補湯(ほとう)は、久しく煎じて熟すれば、やはらかにして能(よく)補(おぎな)ふ。利薬(りやく)は、生気(せいき)のつよきを用(もっ)て、はげしく病邪(びょうじゃ)をうつべし。