養生訓347(巻第七 用薬)

今世(こんせ)、医家(いか)に泡薬(ひたしやく)の法あり。薬剤(やくざい)を煎(せん)ぜずして、沸湯(ふっとう)にひたすなり。世俗(よぞく)に用(もちい)る振薬(ふりやく)にはあらず。此法(このほう)、振薬(しんやく)にまされり。其法(このほう)、薬剤を細(こまか)にきざみ、細(こまか)なる竹篩(たけふるい)にてふるひ、もれざるをば、又、細にきざみ粗末(そまつ)とすべし。布(ぬの)の薬袋(くすりぶくろ)をひろくして薬を入れ、まづ碗(わん)を熱湯(ねっとう)にてあたゝめ、その湯はすて、やがて薬袋を碗に入(いれ)、其上(そのうえ)より沸湯(にえゆ)を少(すこし)そゝぎ、薬袋(くすりぶくろ)を打返(うちかえ)して、又、其上(そのうえ)より沸湯(にえゆ)を少(すこし)そゝぐ。両度(りょうど)に合(あわ)せて半盞(はんうき)ほど熱湯(ねっとう)をそゝぐべし。薬の液(しる)の自然(じねん)に出(いで)るに任せて、振出(ふりだ)すべからず。早く蓋(ふた)をして、しばし置(おく)べし。久(ひさ)しくふたをしおけば、薬汁(やくじゅう)出(いで)過(ぎ)てちからなし。薬汁(やくじゅう)出(いで)で、熱湯(ねっとう)の少(すこし)さめて温(あたたか)に、なりたるよきかんの時、飲(む)べし。かくの如くして二度泡(ひた)し、二度のみて後、其(その)かすはすつべし。袋のかすをしぼるべからず。薬汁(やくじゅる)濁(にごり)てあしし。此法薬力(やくりょく)つよし。利薬(りやく)には、此(この)煎法(せんぽう)も宜(よろ)し。外邪(がいじゃ)、食傷(しょくしょう)、腹痛(ふくつう)、霍乱(かくらん)などの病(やまい)には、煎湯(ぜんとう)よりも此法の功(こう)するどなり、用(もち)ゆべし。振薬(ふりやく)は用(もち)ゆべからず。此法、薬汁(やくじゅる)早く出(いで)て薬力(やくりき)つよし。たとへば、茶を沸湯(ふっとう)に浸(ひた)して、其(その)にえばなをのめば、其(その)気つよく味もよし。久しく煎(せん)じ過(すご)せば、茶の味も気もあしくなるが如し。