養生訓338(巻第七 用薬)

薬剤一服(やくざいいっぷく)の大小の分量(ぶんりょう)、中夏(ちゅうか)の古法(こほう)を考(かん)がへ、本邦(ほんぽう)の土宜(とぎ)にかなひて、過不及(かふきゅう)なかるべし。近古(きんこ)、仲井家(なかいけ)には、日本の土地、民俗の風気(ふうき)に宜(よろ)しとて、薬の重さ八分(はちぶ)を一服いっぷく)とす。医家によりて一匁(もんめ)を一服(いっぷく)とす。今の世、医の薬剤は、一服の重さ六七分(ろくひちぶ)より一匁(もんめ)に至(いた)る。一匁より多きは稀(まれ)なり。中夏(ちゅうか)の薬剤(やくざい)は、医書を考ふるに、一服三匁(さんぷくまんもんめ)より十匁(じゅうもんめ)に至(いたる)。東垣(とうえん)は、三匁(さんもんめ)を用ひて一服とせし事あり。中夏の人、煎湯(せんとう)の水を用る事は少く、薬一服(くすりいっぷく)は大(だい)なれば、煎汁(せんじる)甚(はなはだ)濃(こく)して、薬力つよく、病を冶(ち)する事早しと云(う)。