養生訓337(巻第七 用薬)

いかなる珍味(ちんみ)も、これを煮(に)る法(ほう)ちがひてあしければ、味あしゝ。良薬も煎法(せんぽう)ちがへば、験(しるし)なし。此(の)故、薬を煎(せん)ずる法によく心を用ゆべし。文火(ぶんか)とは、やはらかなる火(ひ)也。武火(ぶか)とは、つよき火なり。文武火(ぶんぶか)とは、つよからず、やはらかならざる、よきかげんの火なり。風寒(ふうかん)を発散し、食滞(しょくたい)を消導(しょうどう)する類(るい)の剛剤(ごうざい)を利薬(りやく)と云(いう)。利薬は、武火(ぶか)にてせんじて、はやくにあげ、いまだ熱せざる時、生気(せいき)のつよきを服すべし。此(の)如(く)すれば、薬力(やくりき)つよくして、邪気(じゃき)にかちやすし。久しく煎(せん)じて熟(じゅく)すれば、薬に生気(せいき)の力なくして、よわし。邪気(じゃき)に、かちがたし。補湯(ほゆ)は、やはらかなる文火(ぶんか)にて、ゆるやかに久しく煎じつめて、よく熟すべし。此如(かくのごとく)ならざれば、純補(じゅんぽ)しがたし。こゝを以(もって)利薬(りやく)は生(せい)に宜(よろ)しく熟(じゅく)に宜しからず。補薬(ほやく)は熟(じゅく)に宜(よろ)しくして、生(せい)に宜(よろ)しからず。しるべし、薬を煎(せん)ずるに此二法(このにほう)あり