養生訓336(巻第七 用薬)

薬肆(やくし)の薬に、好否(こうひ)あり、真偽(しんぎ)あり。心を用ひてゑ(え)らぶべし。性あしきと、偽薬(ぎやく)とを用ゆべからず。偽薬とは、真(しん)ならざる似(に)せ薬(ぐすり)也。拘橘(くきつ)を枳穀(きこく)とし、鶏腿児(けいたいじ)を柴胡(さいこ)とするの類(たぐい)なり。又、薬の良否(りょうひ)に心を用ゆべし。其病(そのやまい)に宜(よろ)しき良方(りょうほう)といへども、薬性(やくせい)あしければ功(こう)なし。又、薬の製法に心を用(もち)ゆべし。薬性よけれ共(ども)、修治方(しゅうちほう)に背(そむ)けば能(のう)なし。たとへば、食物も其(その)土地により、時節(じせつ)につきて、味のよしあしあり。又、よき品物も、料理あしければ、味なくして、くはれざるが如し。こゝを以(もって)その薬性のよきをゑ(え)らび用(もち)ひ、其(その)製法をくはしくすべし。