養生訓332(巻第七 用薬)
脾胃(ひい)を養ふには、只(ただ)穀肉(こくにく)を食するに相宜(あいよろ)し。薬は皆(みな)気の偏(へん)なり。参芪(じんぎ)、朮甘(じゅつかん)は上薬(じょうやく) にて毒なしといへども、病に応ぜざれば胃の気を滞(とどこお)らしめ、かへつて病を生じ、食(しょく)を妨(さまた)げて毒となる。いはんや攻撃のあらくつよき薬は、病に応ぜざれば、大(おおいに) に元気をへらす。此故(このゆえ)に病なき時は、只(ただ)穀肉を以(もって)やしなふべし。穀肉の脾胃(ひい)をやしなふによろしき事、参芪(じんぎ)の補にまされり。故に、古人(こじん) の言に薬補(やくほ)は食補(しょくほ)にしかずといへり。老人は殊に食補すべし、薬補(やくほ)は、やむ事を得ざる時、用ゆべし。
養生訓(意訳)
健康な時、適正な食事をしていれば栄養剤などの薬は必要ないでしょう。「薬は皆、気の偏なり。」
通解
脾胃を健やかに保つためには、穀物と肉を食べることが適しています。薬はすべて気質が偏っています。参芪や朮甘といった上質な薬であっても、病気に応じなければ胃の気を滞らせ、結果として病気を引き起こし、食事を妨げて毒となることがあります。また、攻撃的で強力な薬は、病気に応じなければ元気を大きく減らすことがあります。そのため、病気のないときは穀物と肉を食べることに従うべきです。穀物と肉は脾胃を補う効果があり、参芪はその補助に利用されます。したがって、古代の人々の言葉によれば、薬は食事に劣るものであり、食事が最も重要であるとされています。特に高齢者は食事に重点を置くべきです。薬は必要がない限り使用せず、使用する場合も慎重に行うべきです。