養生訓330(巻第七 用薬)
孫思邈(そんしばくいわく)曰(いわく) 、人、故(ゆえ)なくんば薬を餌(くらう)べからず。偏(ひとえ)に助(たす)くれば、蔵気不平(ぞうきふへい)にして病(やまい)生(しょう)ず。劉仲達(りゅうちゅうたつ)が鴻書(こうしょ)に、疾(やまい)あつて、もし名医なくば薬をのまず、只(ただ)病のいゆるを、しづかにまつべし。身を愛し過(すご)し、医の良否(りょうひ)を、ゑ(え)らばずして、みだりに早く、薬を用る事なかれ。古人(こじん)、病あれども治せざるは中医(ちゅうい)を得(え)ると云、此言(このことば)、至論(しろん)也といへり。庸医(ようい)の薬は、病に応(おう)ずる事はすくなく、応ぜざる事多し。薬は皆、偏性(へんしょう)ある物なれば、其病(そのやまい)に応ぜざれば、必(かならず)毒となる。此故(このゆえ)に、一切(いっさい)の病に、みだりに薬を服すべからず。病の災(わざわい)より薬の災(わざわい)多し。薬を用(もちい)ずして、養生を慎みてよくせば、薬の害なくして癒(いえ)やすかるべし。
養生訓(意訳)
古人も、言っています。「みだりに薬を服すべからず。」と。
通解
孫思邈は言いました。「人は、理由がなければ薬を飲むべきではありません。ただ単に助けるために薬を飲むと、内部の気のバランスが崩れて病気を引き起こすことがあります。」また、劉仲達の『鴻書』には、「もし病気にかかった場合、名医がいなければただ静かに病が進行するのを待つべきであり、自分の身を大切にし、医者の質にこだわらず、無闇に早く薬を使用しないようにすべきです。」とあります。古代の人々は、「病気があっても治せないのは中程度の医者を受けるべきだ」と言っており、これは最も妥当な論理です。庸医の薬は、病気に応じることは少なく、応じないことが多いです。薬はすべて特定の性質を持っているため、病気に応じない場合は必ず毒となります。そのため、どんな病気にも無闇に薬を服用すべきではありません。病気の被害よりも、薬の被害の方が多いです。薬を使用しながら健康管理に気をつけると、薬の害をなくし、病気を癒すことができるでしょう。
庸医とは
「庸医(ようい)」は、一般的には医師の中で能力や知識が乏しい、または実力不足な医者を指す言葉です。彼らは、本来の医学的な能力や専門知識を持たずに、医療行為を行うことがあります。庸医はしばしば効果のない治療法や誤った診断を行い、患者の健康を害することがあります。