養生訓350

或曰(あるいはいわく)、病あつて治(ち)せず、常に中医(ちゅうい)を得(う)る、といへる道理(どうり)、誠にしかるべし。然(しか)らば、病あらば只(ただ)上医(じょうい)の薬を服(ふく)すべし。中下(ちゅうげ)の医(い)の薬は服すべからず。今時(いまどき)、上医(じょうい)は有(え)がたし、多くは中下医(ちゅうげ)なるべし。薬をのまずんば、医は無用(むよう)の物なるべしと云。答曰(こたえていわく)、しからず、病あつて、すべて治(ち)せず。薬をのむべからずと云は、寒熱(かんねつ)、虚実(きょじつ)など、凡(およそ)病の相似(あいに)て、まぎらはしくうたがはしき、むづかしき病をいへり。浅薄(せんぱく)なる治(ち)しやすき症は、下医(げい)といへども、よく治(ち)す。感冒咳嗽(かんぼうがいそう)に参蘇飲(じんそいん)、風邪(かぜ)を発散するに香蘇散(こうそさん)、敗毒散(はいどくさん)、藿香(かっこう)、正気散(しょうきさん)。食滞に平胃散(へいいさん)、香砂平胃散(こうさへいいさん)、かやうの類は、まぎれなくうたがはしからざる病なれば、下医(げい)も治(ち)しやすし。薬を服して害なかるべし。右の症(しょう)も、薬(くすり)しるしなき、むづかしき病ならば、薬を用(もちい)ずして可(か)也

養生訓

前の記事

養生訓349
養生訓

次の記事

養生訓351