養生訓327(第六巻 択医)
或曰(あるいはいわく)、病あつて治(ち)せず、常に中医(ちゅうい)を得(う)る、といへる道理(どうり)、誠にしかるべし。然(しか)らば、病あらば只(ただ)上医(じょうい)の薬を服(ふく)すべし。中下(ちゅうげ)の医(い)の薬は服すべからず。今時(いまどき)、上医(じょうい)は有(え)がたし、多くは中下医(ちゅうげ)なるべし。薬をのまずんば、医は無用(むよう)の物なるべしと云。答曰(こたえていわく)、しからず、病あつて、すべて治(ち)せず。薬をのむべからずと云は、寒熱(かんねつ)、虚実(きょじつ)など、凡(およそ)病の相似(あいに)て、まぎらはしくうたがはしき、むづかしき病をいへり。浅薄(せんぱく)なる治(ち)しやすき症は、下医(げい)といへども、よく治(ち)す。感冒咳嗽(かんぼうがいそう)に参蘇飲(じんそいん)、風邪(かぜ)を発散するに香蘇散(こうそさん)、敗毒散(はいどくさん)、藿香(かっこう)、正気散(しょうきさん)。食滞に平胃散(へいいさん)、香砂平胃散(こうさへいいさん)、かやうの類は、まぎれなくうたがはしからざる病なれば、下医(げい)も治(ち)しやすし。薬を服して害なかるべし。右の症(しょう)も、薬(くすり)しるしなき、むづかしき病ならば、薬を用(もちい)ずして可(か)也
養生訓(意訳)
医者には、上医、中医、下医があります。今時は上医は少ないです。でも、日常にある病ならば下医でも治せます。薬と医者は、自分の症状と程度により選別すべきです。
通解
ある人は言います、「病気になったら、常に上手な医者を探し求めるべきであり、中程度以下の医者の薬は服用すべきではない」と。現代では上手な医者を見つけることが難しく、多くの医者は中程度以下であると言われます。薬を処方しなければ医者は無用な存在であるとも言われます。
それに対して、私は答えます。全ての病気が薬を服用しないと治癒しないわけではありません。寒熱や虚実など、一般的な病気の場合、まぎらわしく診断が難しい病気もあります。浅い知識で治療しやすい症状は、中程度以下の医者でも十分に治療できます。風邪には参蘇飲や香蘇散、敗毒散、藿香、正気散などが効果的です。消化不良には平胃散や香砂平胃散などが有効です。このような一般的な症状では、中程度以下の医者でも治療が容易であり、薬を服用しても害はありません。
しかし、症状が明確でなく、難しい病気の場合は、薬を使用しても効果がないこともあります。このような症状には薬が示唆されない場合もありますが、医者が適切な治療方法を用いることは可能です。