養生訓321(第六巻 択医)
凡(およそ)諸医(しょい)の方書(ほうしょ)偏説(へんせつ)多し。専(もっぱら)一人(いちにん)を宗(そう)とし、一書(いっしょ)を用(もち)ひては治(じ)を為(なしが)しがたし。学者、多く方書(ほうしょ)をあつめ、ひろく異同(いどう)を考(かんがえ)へ、其(その)長(ちょう)ずるを取(っ)て其(その)短(たん)なるをすて、医療をなすべし。此後(そのご)、才識(さいしき)ある人、世を助(たす)くるに志(こころざし)あらば、ひろく方書(ほうしょ)ゑ(え)らび、其(その)重複(じゅうふく)をけづり、其(その)繁雑(はんざつ)なるを除き、其(その)粋美(すいび)なるをあつめて、一書(いっしょ)と成(な)さば、純正(じゅんせい)なる全書(ぜんしょ)となりて、大(だい)なる世宝(せほう)なるべし。此事(このこと)は、其(その)人を待(ま)ちて行(おこな)はるべし。
養生訓(意訳)
世の中には、いろいろな考え方があります。一つの考えに固執せず、様々な意見を聞くことも大切です。このことは、医学も同じです。偏説に偏ってはいけません。
通解
一般的に、多くの医書には特定の説や主張があります。ただし、一人の医師を絶対的な権威とせず、一つの書籍に偏らずに治療を行うことが重要です。学者は多くの医書を収集し、幅広い意見の違いを考慮し、その長所を取り入れながら短所を捨てて医療を行うべきです。その後、才識のある人々が世の中を助ける志を持つ場合は、広範な医書を選び、重複した内容を取り除き、複雑さを排除し、優れた部分を集めて一つの書籍とすることで、純粋で優れた全書が完成し、大いなる財産となるでしょう。このことは、そのような人を待って実行されるべきです。