養生訓304(第六巻 択医)
医(い)とならば、君子(くんし)医となるべし、小人(しょうじん)医となるべからず。君子(くんし)医は人のためにす。人を救ふに、志(こころざし)専一(せんいち)なる也。小人医(しょうじんい)はわが為にす。わが身の利養(りよう)のみ志(こころざ)し、人をすくふに志(こころざし)専(せん)ならず。医(い)は仁術(にんじゅつ)也。人を救ふを以(もって)志(こころざし)とすべし。
是(これ)人のためにする君子医(くんしい)也。人を救ふ志(こころざし)なくして、只(ただ)、身の利養(りよう)を以(もって)志(こころざし)とするは、是(これ)わがためにする小人医(しょうじんい)なり。医は病者(びょうじゃ)を救はんための術(じゅつ)なれば、病家(びょうか)の貴賤貧富(きせんひんぷ)の隔(へだて)なく、心を尽(つく)して病(やまい)を治(なお)すべし。病家(びょうけ)よりまねかば、貴賤(きせん)をわかたず、はやく行べし。遅々(ちち)すべからず。
人の命は至(いた)りておもし、病人(びょうにん)をおろそかにすべからず。是(これ)医(い)となれる職分(しょくぶん)をつとむる也。小人医(しょうじんい)は、医術(いじゅつ)流行すれば我身(わがみ)にほこりたかぶりて、貧賤(ひんせん)なる病家(びょうけ)をあなどる。是(これ)医の本意を失(うしな)へり。
養生訓(意訳)
医者は患者の命を一番に考えなくてはなりません。己の利得を優先する医者は小人医です。小人医は、わが身を誇り高ぶりて庶民をあなどります。医者の本意を失っています。
通解
医者となるならば、君子医となるべきであり、小人医となるべきではありません。君子医は人のために働きます。人を救うために志を一つにし、専念します。一方、小人医は自分の利益や生計のために働き、人を救うための志を持ちません。医者は仁術であり、人を救うことを志とすべきです。
君子医は人のために尽力する存在です。人を救うための志を持たずに、ただ自分の利益や生計を追求するのは、小人医の姿です。医者は病者を救うための技術であり、病気を抱える家庭の身分や貧富の差に関わらず、心を込めて病を治療すべきです。病人から求められれば、身分や地位を問わず、迅速に行動するべきです。遅々とすることは許されません。
人の命は重く、病人を軽んじてはなりません。これが医者として果たすべき使命です。小人医は、医術が一時的に流行すると自分自身を誇り、貧しい病家を軽視します。これは医者の本来の意図を失った行動です。