養生訓299(第六巻 慎病.択医)

神怪(しんかい)、奇異(きい)なる事、たとひ目前(もくぜん)に見るとも、必(かならず)鬼神(きじん)の所為(しょい)とは云がたし。人に心病(しんびょう)あり。眼病(がんびょう)あり。此病(このやまい)あれば、実になき物、目に見ゆる事(こと)多し。信(しん)じてまよふべからず。保養(ほよう)の道は、みづから病を慎しむのみならず、又、医(い)をよくゑ(え)らぶべし。天下にもかへがたき父母の身、わが身を以(もって)庸医(ようい)の手にゆだぬるはあやうし。医の良拙(りょうせつ)をしらずして、父母子孫(ふぼしそん)病(やまい)する時に、庸医(ようい)にゆだぬるは、不孝不慈(ふこうふじ)に比(ひ)す。おやにつかふる者も、亦(なお)医(い)をしらずんばあるべからず、といへる程子(ていし)の言、むべなり。医をゑ(え)らぶには、わが身医療に達せずとも、医術の大意(たいい)をしれらば、医(い)の好否(よしあし)をしるべし。たとへば書画(しょが)を能(よく)せざる人も、筆法(ひつほう)をならひしれば、書画(しょが)の巧拙(こうせつ)をしるが如し。
養生訓(意訳)
良医に巡り合うことは大変幸せな事です。良医を選ぶ事は難しいですが、自分自身が医学の大意を知っていれば、その良し悪しは、だいたい分かります。例えば、書けないまでも書画を見て、その良し悪しが分かるのと似ています。
通解
神怪や奇異なことが目の前に現れても、必ずしもそれは鬼神の仕業とは言えません。人には心の病や目の病があります。この病気があると、現実には存在しないものが目に見えることが多くなります。そのようなことを信じて迷うべきではありません。健康のためには、自分自身の病気に気をつけるだけでなく、優れた医者を選ぶことも重要です。自分の身を大切にしないと、親や子孫の身も危険にさらすことになります。医者の腕前を知らずに親や子孫が病気になったとき、無能な医者に頼ることは、不孝で無慈悲な行為と言えます。親を頼る者もまた、医者を知らなければなりません。医者を選ぶには、自分自身が医療に詳しくなくても、医学の基本的な考え方を知っておくことで、医者の腕前を判断できるはずです。例えば、絵画を得意としない人でも、筆法を学ぶことで、絵画の腕前を評価できるようになります。