養生訓304

千金方に曰(いわく)、冬、温(あたたか)なる事を極めず、夏、涼(すずし)きことを、きはめず、凡(およそ)一時快(こころよ)き時は、必ず後(のち)の禍(わざわい)となる。病(やまい)生じては、心のうれひ、身の苦み甚(はなはだ)し。其上(そのうえ)、医をまねき、薬をのみ、灸をし、針をさし、酒をたち、食をへらし、さまざまに心をなやまし、身をせめて、病を治(なお)せんとせんよりは、初(はじめ)に内欲をこらゑ(え)、外邪(がいじゃ)をふせげば、病おこらず。薬を服せず、針灸(はりきゅう)せずして、身のなやみ、心の苦みなし。初(はじめ)しばしの間、つヽしみ、しのぶは、少(すこし)の心づかひなれど、後の患(うれい)なきは、大なるしるしなり。後に薬と針灸(しんきゅう)を用(もち)ひ、酒食をこらへ、つヽしむは、その苦み甚(はなはだ)しけれど、益(えき)少なし。古語(こご)に、終わりをつヽしむ事は、始(はじめ)におゐ(い)てせよ、といへり。萬(よろず)の事、始(はじめ)に、よくつヽしめば、後に悔(くい)なし。養生の道、ことさら、かくのごとし。

養生訓(意訳)
病気になれば、病院に行き、薬を飲み、注射して、お酒を控え、食事を制限しなければなりません。身は悩み、心も苦しみます。昔から、よろずの事、始めよく慎めば、後に悔いなしと云います。準備は何事も早い方が良いです。養生も同じことです。

通解

「千金方」には、「冬に暖かさを極めず、夏に涼しさを求めず、どんな時でも快適な生活をし過ぎることは、必ず後で禍(わざわい)を招く」と述べられています。病気が発症すると、心の喜びと身体の苦しみが共存し、医師にかかり、薬を服用し、灸や鍼を受け、飲酒を控え、食事を制限し、さまざまな治療を受け、心身を苦しめることになります。

しかし、最初から欲望を抑え、外部からの病原体を避けることで、病気を防ぐことができます。薬や治療を必要とせず、身体の不調や苦痛がなく、最初は少し我慢が必要かもしれませんが、後で大きな功徳があります。病気が発症した後に治療や制限を始めても、苦痛は大きいものの、効果は限定的です。

古代の知恵には、問題が始まる前に適切な対策を講じることが大切であるという教訓が含まれています。養生の方法も同様であり、最初から健康を保つための生活習慣を整えることが、後で後悔しない鍵です。養生とは、予防を徹底することです。

気づき

「冬、温なることを極めず、夏、涼きことをきはめず」
冬には十分に温まらず、夏には涼しいことを心掛けるべきです。

「凡一時快き時は、必ず後の禍となる」
いつでも快適な状態を求めると、必ず後に問題が起こることになります。

「病生じては、心の喜び、身の苦み甚し」
病気が生じると、心の喜びはなくなり、身体の苦しみが非常に強くなります。

「その上、医をまねき、薬を飲み、灸をし、針を刺し、酒を立ち、食を減らし、さまざまに心を悩まし、身を攣って、病を治そうとせんよりは、初めに内欲をこらえ、外邪を防げば、病気は起こらず」
医者にかかり、薬を服用し、灸をする、針を刺す、酒を立つ、食事を制限するなどの方法で病気を治そうとするよりも、初めに内面の欲望を抑え、外からの邪気を防いだ方が病気は起こらない。

「薬を服せず、針灸せずして、身の悩み、心の苦みなし」
薬を服用せず、針灸をせずとも、身体の悩みや心の苦しみはない。

「初しばしの間、つづしみ、しのぶは、少しの心遣いなれど、後の患なきは、大なるしるしなり」
最初のしばらくの間は我慢し、忍耐する必要があります。少しの苦労や心配があっても、後に大きな問題がないことが証明されるでしょう。

「後に薬と針灸を用い、酒食を励めば、つづしむは、その苦み甚しけれど、益少なし」
後になってから薬や針灸を用いて、酒や食事を制限することは苦しいでしょうが、利益は少ないです。

「古語に、終わりをつづしむことは、始め終わりを続けむことは、始めに置いてせよと言えり。」
古い教えでは、最初から終わりを見越して行動することが重要とされています。

「万の事、始めによく続ければ、後に悔いなし」
あらゆることにおいて、最初からよく続ければ、後悔することはありません。

「養生の道、ことさら、かくのごとし」
特に健康の保持に関する方法は、このような考え方が重要です。

この文は、養生や生活のあり方において、初めから慎重さや節制を持ち、終わりを見越して行動することの重要性を説いています。また、過度な快楽追求や欲望の赴くままに生活することは、後に禍や苦しみをもたらすと述べられていると感じました。

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