養生訓281(第六巻 慎病)
千金方に曰(いわく)、冬、温(あたたか)なる事を極めず、夏、涼(すずし)きことを、きはめず、凡(およそ)一時快(こころよ)き時は、必ず後(のち)の禍(わざわい)となる。病(やまい)生じては、心のうれひ、身の苦み甚(はなはだ)し。其上(そのうえ)、医をまねき、薬をのみ、灸をし、針をさし、酒をたち、食をへらし、さまざまに心をなやまし、身をせめて、病を治(なお)せんとせんよりは、初(はじめ)に内欲をこらゑ(え)、外邪(がいじゃ)をふせげば、病おこらず。薬を服せず、針灸(はりきゅう)せずして、身のなやみ、心の苦みなし。初(はじめ)しばしの間、つヽしみ、しのぶは、少(すこし)の心づかひなれど、後の患(うれい)なきは、大なるしるしなり。後に薬と針灸(しんきゅう)を用(もち)ひ、酒食をこらへ、つヽしむは、その苦み甚(はなはだ)しけれど、益(えき)少なし。古語(こご)に、終わりをつヽしむ事は、始(はじめ)におゐ(い)てせよ、といへり。萬(よろず)の事、始(はじめ)に、よくつヽしめば、後に悔(くい)なし。養生の道、ことさら、かくのごとし。
養生訓(意訳)
病気になれば、病院に行き、薬を飲み、注射して、お酒を控え、食事を制限しなければなりません。身は悩み、心も苦しみます。昔から、よろずの事、始めよく慎めば、後に悔いなしと云います。準備は何事も早い方が良いです。養生も同じことです。
通解
「千金方」には、「冬に暖かさを極めず、夏に涼しさを求めず、どんな時でも快適な生活をし過ぎることは、必ず後で禍(わざわい)を招く」と述べられています。病気が発症すると、心の喜びと身体の苦しみが共存し、医師にかかり、薬を服用し、灸や鍼を受け、飲酒を控え、食事を制限し、さまざまな治療を受け、心身を苦しめることになります。
しかし、最初から欲望を抑え、外部からの病原体を避けることで、病気を防ぐことができます。薬や治療を必要とせず、身体の不調や苦痛がなく、最初は少し我慢が必要かもしれませんが、後で大きな功徳があります。病気が発症した後に治療や制限を始めても、苦痛は大きいものの、効果は限定的です。
古代の知恵には、問題が始まる前に適切な対策を講じることが大切であるという教訓が含まれています。養生の方法も同様であり、最初から健康を保つための生活習慣を整えることが、後で後悔しない鍵です。養生とは、予防を徹底することです。