養生訓273

導引(どういん)の法を毎日行へば、気をめぐらし、食を消して、積聚(しゃくじゅ)を生ぜず。
朝いまだおきざる時、両足をのべ、濁気(だくき)をはき出し、おきて坐(ざ)し、頭を仰(あおのき)て、両手をくみ、向(むこう)へ張出(はりだ)し、上に向ふべし。歯をしばしばたゝき、左右の手にて、項(うなじ)をかはるがはるおす。

其(その)次に両肩をあげ、くびを縮(ちじ)め、
目をふさぎて、俄(にわか)に肩を下へさぐる事、三度。次に面(かお)を、両手にて、度々(たびたび)なで下ろし、目を、目がしらより目じりに、しばしばなで、鼻を、両手の中指にて六七度なで、耳輪(じりん)を、両手の両指にて挟(はさ)み、なで下ろす事六七度、両手の中指を両耳に入、さぐり、しばしふさぎて両方へひらき、両手をくみ、左へ引ときは、かうべ右をかへり見、右へ引ときは、左へかへりみる
 此如(かくのごとく)する事(こと)各(かく)三度。次に手の背にて、左右の腰の上、京門(けいもん)のあたりを、すぢかひに、下に十余度(じゅうよたび)なで下し、次に両手を以(もって)、腰を按(お)す。両手の掌(たなごころ)にて、腰の上下(じょうげ)をしばしばなで下(くだ)す。是(これ)食気(しょくき)をめぐらし、気を下す。
次に手を以、臀(しり)の上を、やはらかに打事(うつこと)十余度。次に股膝(またひざ)を撫(な)くだし、両手をくんで、三里(さんり)の辺(へん)をかゝえ、足を先へふみ出し、左右の手を前へ引、左右の足、ともに、此如(かくのごとく)する事しばしばすべし。次に左右(さゆう)の手を以(も)って、左右のはぎの表裏(おもてうら)を、なで下す事数度。次に足の心(うら)湧泉(ゆせん)の穴と云、片足(かたあし)の五指を片手にてにぎり、湧泉の穴を左手にて右をなで、右手にて左をなづる事、各数十度。又、両足の大指(おおゆび)をよく引、残る指をもひねる。是(これ)術者(じゅつしゃ)のする導引の術なり。閑暇(かんか)ある人は日々かくの如す。又、奴婢児童(ぬひじどう)にをしへてはぎをなでさせ、足心(そくしん)をしきりにすらせ、熱(ねつ)生じてやむ。又、足の指を引(ひか)しむ。朝夕(あさゆう)此如(かくのごとく)すれば、気下(きくだ)り、気めぐり、足の痛(いたみ)を治(なお)す。甚(はなはだ)益あり。遠方(えんぽう)へ歩行(ほこう)せんとする時、又は歩行して後、足心(そくしん)を右のごとく按(お)すべし。

気づき

両足をのばして、濁気をはき出す
頭を仰ぎ、両手をくみ、向こうに張り出す
歯を鳴らし、項(うなじ)をかばう
両肩をあげ、くびを縮め、目をふさぐ
面をなで下ろし、鼻をなで、耳輪をなで下ろす
手の背で腰をなで下ろし、掌で腰の上下をなでる
臀の上を軽くたたく
股膝をなで、足の裏を揉む
足の指を引っ張り、残りの指をひねる
これらの動作を朝夕行うことにしています。

積聚(しゃくじゅ)とは、
痛みや動悸などお腹に現れる異常のこと。

三里(さんり)とは、
ひざがしらの下の方で、外側の少しくぼんだ所とのこと。

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