養生訓262

房室(ぼうしつ)の戒(いましめ)多し。殊(こと)に天変(てんぺん)の時をおそれいましむべし。日蝕(にっしょく)、月蝕(げっしょく)、雷電(らいでん)、大風(たいふう)、大雨(おおあめ)、大暑(たいしょ)、大寒(だいかん)、虹霓(こうげい)、地震、此時(このとき)房事をいましむべし。春月雷(しゅうげつらい)、初(はじめ)て声を発する時、夫婦(ふうふ)の事をいむ。又、土地につきては、凡(およそ)神明(じんめい)の前をおそるべし。日月星(にちげっせい)の下、神祠(しんし)の前、わが父祖(ふそ)の神主(かんぬし)の前、聖賢(せいけん)の像の前、是(これ)皆おそるべし。且(かつ)我が身の上につきて、時の禁(きん)あり。病中・病後、元気いまだ本復(ほんぷく)せざる時、殊(ことに)傷寒(しょうかん)、時疫(じえき)、瘧疾(ぎゃくしつ)の後、腫物、癰疽(ようそ)いまだいえざる時、気虚(ききょ)、労損(ろうそん)の後、飽渇(ほうかつ)の時、大酔(たいすい)・大飽(たいほう)の時、身(み)労動し、遠路行歩(えんろぎょうぶ)につかれたる時、忿(いかり)・悲(かなしみ)、うれひ、驚(おどろ)きたる時、交接(こうせつ)をいむ。冬至(とうじ)の前五日、冬至(とうじ)の後十日、静養して精気(せいき)を泄(もら)すべからず。又女子の経水(けいすい)、いまだ尽(つき)ざる時、皆(みな)交合(こうあい)を禁ず。是(これ)天地・地祇(くにつかみ)に対して、おそれつつしむと、わが身において、病を慎しむ也。若し、是(これ)を慎しまざれば、神祇(じんぎ)のとがめ、おそるべし。男女共に病を生じ、寿(ことぶき)を損(そん)ず。生るる子も亦(また)、形も心も正しからず、或(あるいは)かたはとなる。禍(わざわい)ありて福(ふく)なし。古人(こじん)は胎教(たいきょう)とて、婦人懐妊(ふじんかいにん)の時より、慎(つつ)しめる法あり。房室(ぼうしつ)の戒(いましめ)は胎教(たいきょう)の前にあり。是(これ)天地神明(てんちしんめい)の照臨(しょうりん)し給(たま)ふ所、尤(もっとも)おそるべし。わが身及妻子(さいし)の禍(わざわい)も、亦(なお)おそるべし。胎教(たいきょう)の前、此(これ)戒(いましめ)なくんばあるべからず。

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