養生訓239(巻第四 慎色欲)

房室(ぼうしつ)の戒(いましめ)多し。殊(こと)に天変(てんぺん)の時をおそれいましむべし。日蝕(にっしょく)、月蝕(げっしょく)、雷電(らいでん)、大風(たいふう)、大雨(おおあめ)、大暑(たいしょ)、大寒(だいかん)、虹霓(こうげい)、地震、此時(このとき)房事をいましむべし。春月雷(しゅうげつらい)、初(はじめ)て声を発する時、夫婦(ふうふ)の事をいむ。又、土地につきては、凡(およそ)神明(じんめい)の前をおそるべし。日月星(にちげっせい)の下、神祠(しんし)の前、わが父祖(ふそ)の神主(かんぬし)の前、聖賢(せいけん)の像の前、是(これ)皆おそるべし。且(かつ)我が身の上につきて、時の禁(きん)あり。病中・病後、元気いまだ本復(ほんぷく)せざる時、殊(ことに)傷寒(しょうかん)、時疫(じえき)、瘧疾(ぎゃくしつ)の後、腫物、癰疽(ようそ)いまだいえざる時、気虚(ききょ)、労損(ろうそん)の後、飽渇(ほうかつ)の時、大酔(たいすい)・大飽(たいほう)の時、身(み)労動し、遠路行歩(えんろぎょうぶ)につかれたる時、忿(いかり)・悲(かなしみ)、うれひ、驚(おどろ)きたる時、交接(こうせつ)をいむ。冬至(とうじ)の前五日、冬至(とうじ)の後十日、静養して精気(せいき)を泄(もら)すべからず。又女子の経水(けいすい)、いまだ尽(つき)ざる時、皆(みな)交合(こうあい)を禁ず。是(これ)天地・地祇(くにつかみ)に対して、おそれつつしむと、わが身において、病を慎しむ也。若し、是(これ)を慎しまざれば、神祇(じんぎ)のとがめ、おそるべし。男女共に病を生じ、寿(ことぶき)を損(そん)ず。生るる子も亦(また)、形も心も正しからず、或(あるいは)かたはとなる。禍(わざわい)ありて福(ふく)なし。古人(こじん)は胎教(たいきょう)とて、婦人懐妊(ふじんかいにん)の時より、慎(つつ)しめる法あり。房室(ぼうしつ)の戒(いましめ)は胎教(たいきょう)の前にあり。是(これ)天地神明(てんちしんめい)の照臨(しょうりん)し給(たま)ふ所、尤(もっとも)おそるべし。わが身及妻子(さいし)の禍(わざわい)も、亦(なお)おそるべし。胎教(たいきょう)の前、此(これ)戒(いましめ)なくんばあるべからず。
養生訓(意訳)
夫婦の房事は時と場所を選びましょう。そして、体調が悪い時は避けましょう。無理をすると禍あって福はありません。
通解
房事についての戒めは多く、特に天変地異の際には注意が必要です。日食、月食、雷、大風、大雨、猛暑、厳寒、虹、地震などの天変地異の際には房事を控えるべきです。春の雷の最初の鳴き声の際にも同様です。また、土地についても神明の前では房事を慎むべきです。日や月や星の下、神社の前、自分の祖先の神社の前、聖賢の像の前、これら全てで慎むべきです。さらに、自分の状態に応じて房事を制限すべき時期も存在します。具体的には、病気の際、回復がまだ十分でない時、感染症の流行、体調がすぐれない時、食べ飲みが過剰な時、体が疲れた時、怒りや悲しみ、興奮がある時、これらの状態で房事を控えるべきです。また、冬至の前5日と冬至の後10日も静養し、精気を節制すべきです。女性の場合、月経中も房事を避けるべきです。これらの戒めは、天地や神々に対する敬意の表れであり、自身の健康を守るためのものです。もしもこれらの戒めを怠ると、神々からの非難があるかもしれません。また、男女双方が病気にかかり、寿命が短くなり、子供が正常に育たず、禍いが生じる可能性があります。古代の人々は、胎児が母親の胎内で影響を受けると信じており、妊娠前から慎むべきことがあったのです。房事についての戒めは、胎教の前にも存在し、天地や神々に感謝と尊敬の念を持ち、自身と家族の幸福を願うためのものであると言えます。
気づき
肉体的な健康な時に限らず、精神的にも安定した時の方が良いみたいですね。