養生訓91

華陀(かだ)が言(げん)に、「人の身は労動すべし。労動すれば穀気(こくき)きえて、血脈流通(りゅうつう)す」といへり。
およそ人の身、慾をすくなくし、時々身をうごかし、手足をはたらかし、歩行して久しく一所(ひとところ)に安坐せざれば、血気(けっき)めぐりて滞らず。
養生の要務(ようむ)なり。
日々かくのごとくすべし。呂氏春秋曰(ろししゅんじゅういわく)、「流水腐らず、戸枢(こすう)螻(むしば)まざるは、動けば也。形気(かたぎ)もまた然(しか)り」。
いふ意(こころ)は、流水はくさらず、たまり水はくさる。から戸(と)のぢくの下の枢(くるま)は虫くはず。
此二(このふたつ)のものはつねにうごくゆへ、わざはひなし。
人の身も亦かくのごとし。一所(ひとところ)に久しく安坐してうごかざれば、飲食とゞこほり、気血(けっき)めぐらずして病を生ず。
食後にふすと、昼臥(ふ)すと、尤(もっとも)禁ずべし。
夜も飲食の消化せざる内に早くふせば、気をふさぎ病を生ず。是養生の道におゐて尤(もっとも)いむべし。

意訳

昔の名医は、運動すれば血行が良くなり、健康に良いと言っています。いつも、動かしているものは、悪くなりません。人も同じです。食後は運動しましょう。

通解

昔の名医である華陀は、「人の身体は労働すべきだ。労働することで穀気が消え、血脈が流通する」と述べています。一般的に、人の身体は欲望を抑え、定期的に動かし、手足を使い、歩行することで血気が滞ることなくめぐり、健康を保つことが重要です。これが養生の基本です。日々このように行動することが大切です。

「流水は腐らず、戸の枢は虫に食われない。動けば形や気も変わる」と呂氏春秋にも記されています。これは、常に動くことが大切であることを示しています。同様に、人の身体も定期的な運動が必要であり、一か所に長時間座り続けないことが健康を保つ秘訣です。長時間座っていると食事の消化が悪くなり、気血のめぐりが滞ることで病気が発生する可能性があります。特に食後すぐに寝たり、昼間長時間寝たりすることは避けるべきです。夜も食事の消化が終わる前に寝ることで、気が詰まり病気を引き起こす可能性があります。これらのことを意識して、養生の道を進むことが大切です。

前の記事

養生訓90

次の記事

養生訓92