養生訓377(巻第八 養老)
年老ては、さびしきをきらふ。子たる者、時々、侍(は)べり、古今の事、しずかに物がたりして、親の心をなぐさむべし。もし朋友(ほうゆう)妻子には和順(わじゅん)にして、久しく対談する事をよろこび、父母に対する事をむづかしく思ひて、たえだえにして、うとくするは、是、其親を愛せずして他人を愛する也。悖(はい)徳(とく)と云べし。不孝の至(いたり)也。おろかなるかな。
養生訓(意訳)
年老いてくれば、寂しくなる心が強くなります。友達や妻子のように楽しく会話することを心がけましょう。
通解
年老いた人は孤独を嫌います。子供である者は、時折、両親と一緒に過ごし、昔のことを静かに話して、親の心を慰めるべきです。友人や妻子にも和順に接し、長い時間をかけて対話を楽しむことを喜び、父母に対することを難しく思って、ぎこちなく避けるのは、自分の親を愛さずに他人を愛することです。これは徳に反する行為であり、不孝の極みと言えます。愚かな行いです。