養生訓363(巻第七 用薬)
毒にあたりて、薬を用(もちい)るに、必(かなら)ず、熱湯を用(もち)ゆべからず。熱湯を用(もち)ゆれば毒(どく)弥(いよいよ)甚(はなはだ)し。冷水(れいすい)を用ゆべし。これ事(こと)林広記(りんこうき)の説(せつ)なり。しらずんばあるべからず。食物の毒、一切(いっさい)の毒にあたりたるに、黒豆(くろまめ)、甘草(かんぞう)をこく煎(せん)じ、冷(ひややか)になりたる時、しきりにのむべし。温熱(おんねつ)なるをのむべからず。はちく竹(たけ)の薬(くすり)を、加(くわ)ふるもよし。もし毒をけす薬なくば、冷水(れいすい)を多く飲べし。多く吐瀉(としゃ)すればよし。是(これ)古人(こじん)急(きゅう)に備(そなえ)ふる法なり。知(しる)べし。酒を煎湯(せんとう)に加(くわ)ふるには、薬を煎じて後、あげんとする時、加(くわ)ふべし。早く加(くわ)ふるあしゝ。
養生訓(意訳)
食物の毒などに当たった時は、黒豆と甘草を濃く煎じ、冷ましてから飲むと良いでしょう。
通解
薬を使用する際に、必ず熱湯を使用してはいけません。熱湯を使用すると、毒がより強くなってしまいます。代わりに冷水を使用するべきです。このことは「林広記」に記載されていますので、知らない方は参考にされるべきです。食物や他の毒に遭った場合は、黒豆と甘草を煎じて冷まし、冷めた時に頻繁に飲むべきです。温かいものを飲んではいけません。はちく竹の薬を加えることも効果的です。もし毒を除去する薬がない場合は、冷水を多く飲んだり、多く嘔吐したりするべきです。これは古代の人々が急な対処法として知っていた方法ですので、覚えておくべきです。酒を煎じた湯に加える場合は、薬を煎じた後に加えるべきです。早く加えることが重要です。