養生訓362(巻第七 用薬)
薬を煎ずるは、磁器(じき)よし、陶器(とうき)也(なり)。又、砂罐(さくわん)と云。銅(どう)をいまざる薬は、ふるき銅器(どうき)もよし。新しきは銅(どう)気多(きおお)くしてあしゝ。世俗(せぞく)に薬鍋(くすりなべ)と云(いう)は、銅(どう)厚くして銅(どう)気(き)多し。薬罐(やくわん)と云は、銅(どう)うすくして銅(どう)気すくなし。形小(かたちしょう)なるがよし。利薬(りやく)を久しく煎じつめては、消導(しょうどう)発散(はっさん)すべき生気(しょうき)の力なし。煎(せん)じつめずして、飪(にえばな)を失はざる生気(しょうき)あるを服して、病(やまい)をせむべし。たとへば、茶をせんじ、生魚(なまうお)を煮(に)、豆腐を煮るが如し。生熟(なまじゅく)の間、よき程の飪(にえばな) を失はざれば、味よくしてつかえず。飪(にえばな)を失へば、味(あじ) あしくして、つかえやすきが如(ごと)し。
養生訓(意訳)
薬を煎じる場合、陶器や磁器で煎じると良いです。銅の成分と関係しない薬については古い銅器も良いです。
通解
薬を煎じる際には、磁器や陶器が適しています。また、砂煉器と呼ばれる銅製の器具も使用できます。銅製の器具を使用する場合は、古い銅製器具でも問題ありませんが、新しいものは銅の成分が多く、注意が必要です。一般的に、薬鍋と呼ばれるものは銅製で厚く、銅の成分が多いです。一方、薬罐と呼ばれるものは銅製で薄く、銅の成分が少ないです。形は小さい方が好ましいです。効果的な薬の煎じ方は、長時間煎じてしまい、生気の力である消導発散の効果を失わせることはありません。煎じすぎずに、適度な飪(にえばな)を保ったまま服用し、病気を治療すべきです。たとえば、お茶を煎じたり、生魚を煮たり、豆腐を煮たりする場合と同様です。生と熟の間で、適切な飪を保たないと、味が良くならず効果が得られません。飪を失うと味が悪くなり、効果が得やすくなります。