養生訓360(巻第七 用薬)
凡(およそ)薬を服する時は、朝夕(ちょうせき)の食(しょく)、常よりも殊(こと)に、つゝしみゑ(え)らぶべし。あぶら多き魚鳥獣(ぎょちょうじゅう)、なます、さしみ、すし、肉(しし)ひしほ、なし物、なまぐさき物、ねばき物、かたき物、一切(いっさい)の生冷(なまびえ)の物、生菜(なまな)の熟(じゅく)せざる物、ふるく、けがらはしき物、色あしく臭(か)あしく、味(あじ)変(へん)じたる物、生(なま)なる菓(くだもの)、つくりたる菓子(かし)、あめ、砂糖、もち、だんご、気をふさぐ物、消化しがたき物、くらふべからず。又、薬をのむ日は、酒を多くのむべからず。のまざるは尤(もっとも)よし。酒力(しゅりょく)、薬にかてばしるしなし。醴(あまざけ)も、のむべからず。日(ひ)長き時も、昼の間、菓子点心(かしてんじん)などくらふべからず。薬力のめぐる間は、食(しょく)をいむべし。点心(てんしん)をくらへば、気をふさぎて、昼の間、薬力めぐらず。又、死人(しにん)、産婦(さんぷ)など、けがれいむべき物を見れば、気をふさぐ故(ゆえ)、薬力(やくりき)めぐりがたく、滞(とどこおり)やすくして、薬のしるしなし。いましめて、みるべからず。