養生訓356(巻第七 用薬)
中夏の書、居家必要(きょかひつよう)、居家必備(きょかひつび)、斉民要術(さいみんようじゅつ)、農政全書(のうせいぜんしょ)、月令広義(がつりょうこうぎ)等(とう)に、料理の法(ほう)を多くのせたり。其(そ)のする所、日本の料理に大(おお) いにかはり、皆、肥濃膏腴(ひのうこうゆ)、油膩(ゆに)の具(ぐ)、甘美(かんみ)の饌(せん)なり。其(その)食味(しょくみ)甚はなは(だ)おもし。中土(ちゅうど)の人は、腸胃(ちょうい)厚く、禀賦(ひんぷ)つよき故に、かゝる重味(じゅうみ)を食しても滞塞(たいそく)せず。今世、長崎に来る中夏人(ちゅうかじん)も、亦(また)此如(これらのごとく)と云(いう)。日本の人は壮盛(そうせい)にても、かたうの饌食(せんしょく)をくらはば飽満(ほうまん)し、滞塞(たいそく)して病おこるべし。日本の人の饌食(せんしょく)は、淡(あわ)くして、かろきをよしとす。肥濃甘美(ひのうかんび)の味を多く用(もち)ず。庖人(ほうじん)の術も、味(あじ)かろきをよしとし、良工(りょうこう)とす。これ、からやまと風気(ふうき)の大(おおいに)に異(こと)る処(ところ)なり。然(しか)れば、補薬(おやく)を小服(しょうふく)にし、甘草(かんぞう)を減じ、棗(なつめ)を少し、用(もちい)る事むべなり。
養生訓(意訳)
外国人と日本人とでは、体格や食生活の歴史が違います。日本人は淡白なものを好みます。薬も、風土に合わせて調合した方が良いでしょう。
通解
中夏の書である『居家必要』『居家必備』『斉民要術』『農政全書』『月令広義』などでは、料理の方法が多く紹介されています。これらの書物は日本の料理に大いに影響を与え、多くの料理が肥沃で濃厚な具材や甘美な調味料を使用したものとなっています。その食の味わいは非常に豪勢です。
中華の人々は胃腸が丈夫であり、体質も強いため、このような濃い味付けの食事を摂っても消化に問題はありません。現代においても、長崎に移住してきた中華の人々も同様の嗜好を持っていると言われています。
一方、日本の人々は健康であっても、このような濃厚な料理を摂り過ぎると消化不良や病気のリスクが高まるでしょう。日本の食事は淡く軽い味付けを好みます。しかし、肥沃で甘美な味わいを好む傾向もあります。料理人の技術も、味わいが淡く軽いことを重視し、優れた技術とされます。これは日本の風土に合った特徴です。
したがって、補薬を少量にし、甘草を減らし、棗をわずかに使用することが望ましいでしょう。