養生訓342(巻第七 用薬)
大人の利薬を煎(せん)ずるに、水をはかる盞(さかずき)は、一盞(いっさん)に水を入るゝ事、大抵(たいてい)五十五匁より六十匁に至るべし。是(これ)盞の重さを除きて水の重さなり。一服(いっぷく)の大小に従つて水を増減すべし。利薬(りやく)は、一服に水(みず)一盞半入(いれ)て、薪(たきぎ)をたき、或(あるいは)かたき炭(すみ)を多くたきて、武火(つよび)を以(もって)一盞にせんじ、一盞を二度にわかち、一度に半盞、服すべし。滓(かす)はすつべし。二度煎ずべからず。病つよくば、一日一夜に二服、猶(なお)其上(そのうえ)にいたるべし。大熱(だいねつ)ありて渇(かっ)する病には、その宜(よろしき)に随(したが)つて、多く用(もち)ゆべし。補薬(ほやく)を煎(せん)ずるには、一盞に水を入(いる)る事、盞の重さを除き、水の重さ五十匁より五十五匁に至(いた)る。是(これ)又、一服(いっぷく)の大小に随したがいて、水を増減すべし。虚人(きょじん)の薬(くすり)小服(しょうふく)なるには、水五十匁入(いる)る盞を用ゆべし。壮人(そうじん)の薬、大服(だいふく)なるには水五十五匁入(いる)る盞を用ゆべし。一服に水二盞入(いれ)て、けし炭(すみ)を用(もち)ひ、文火(ぶんか)にてゆるやかにせんじつめて一盞とし、かすには、水一盞入て半盞にせんじ、前後(ぜんご)合せて一盞半となるを、少(すこし)づつ、つかへざるやうに、空腹に、三四度(よんど)に、熱服(ねつふく)す。補湯(ほとう)は、一日に一服、若(もし)つかえやすき人は、人により、朝夕は、のみがたし、昼夜二度(ちゅうやにど)のむ。短日は、二度は、つかえて服しがたき人あり、病人によるべし。つかえざる人には、朝夕昼間(あさゆういるま)一日(いちにち)に一服、猶(なお)其上(そのうえ)も服すべし。食滞(しょくたい)あらば、補湯(ほとう)のむべからず。食滞(しょくたい)めぐりて後、のむべし。
養生訓(意訳)
自分で煎じる場合は、その時の症状にあった水量で煎じましょう。
通解
大人の利薬を煎じる場合、水の量は一盞に入ることが一般的で、その重さは大体五十五匁から六十匁程度です。この盞の重さを除いた部分が水の重さとなります。一服の大きさに応じて水の量を増減させる必要があります。
利薬を煎じる場合、一服に対して水一盞半を使います。薪や固い炭を多く使い、強い火力で一盞になるまで煎じます。その後、一度に二度に分け、一度に半盞を服用します。滓は取り除く必要があります。二度煎じることは避けるべきです。病状が重い場合は、一日に一夜に二服程度まで増やすこともあります。高熱や喉の渇きがある場合は、それに応じて多く使用する必要があります。
補薬を煎じる場合、一盞に水を入れる際は、盞の重さを除いて水の重さを五十匁から五十五匁程度にします。また、一服の大きさに応じて水の量を増減させます。虚弱な人の場合、薬を小服する際は、水五十匁入りの盞を使用します。健康な成人の場合、薬を大服する際は、水五十五匁入りの盞を使用します。一服に水二盞を使い、けし炭を使用して文火でゆっくりと煎じ、一盞にまとめます。かす部分には水一盞を加えて半盞にし、前後合わせて一盞半となります。少しずつ、空腹時に三四度に分けて熱く服用します。
補湯の場合、一日に一服服用します。服用しやすい人は、個人により朝と夕方に服用することもあります。短時間で服用が難しい場合や、病状によっては昼夜二度服用します。服用が難しい場合の人は、朝と夕方、昼間の計一日に一服服用し、必要に応じて増やすこともあります。食物が滞る場合は、補湯は避けるべきです。食後に服用するようにします。