養生訓343(巻第七 用薬)
補薬(ほやく)は、滞塞(たいそく)しやすし。滞塞(たいそく)すれば害あり益なし。利薬(りやく)を服するより、心を用ゆべし。もし大剤にして気塞(ふさ)がらば、小剤(しょうざい)にすべし。或(あるいは)棗(なつめ)を去(さ)り生姜(しょうが)を増すべし。補中益気湯(ほちゅうえききとう)などのつかえて用(もちい)がたきには、乾姜(かんきょう)、肉桂(にくけい)を加(くわ)ふべき由(よし)、薜立斉(せつりゅうさい)が医案(いあん)に、いへり。又、症(やまい)により附子(ぶし)、肉桂(にくけい)を少(すこし)加(くわ)へ、升麻(しょうま)、柴胡(さいこ)を用(もちい)るに、二薬(にやく)ともに火を忌(い)めども、実にて炒(り)用ゆ。是(これ)正伝惑問(せいでんわくもん) の説(せつ)也。又、升麻(しょうま)、柴胡(さいこ)を去(さり)て桂姜(けいきょう)を加ふる事あり。李時珍(りじちん)も、補薬(ほやく)に少(すこし)附子(ぶし)を加(くわ)ふれば、その功(こう)するどなり、といへり。虚人(きょ)の熱(ねつ)なき症(やまい)に、薬力(やくりき)をめぐらさん為ならば、一服(いっぷく)に五釐(りん)か一分(いちぶ)加ふべし。然(しか)れども病症(びょうしょう)によるべし。壮人(そうじん)には、いむべし。
養生訓(意訳)
栄養剤だからといって安易に考えず、服する時は、自分に合ったものを選びましょう。
通解
補薬(ほやく)は、体内のエネルギーや気の流れが滞りやすくなります。滞りが生じると害があり、益はありません。利薬を服用する際には、単に薬を摂取するだけではなく、心を使うことが重要です。もし大量の薬を服用すると気が詰まる場合は、小さな量の薬に切り替えるべきです。例えば、棗(なつめ)を減らして生姜(しょうが)を増やすなどの調整が必要です。
補中益気湯など、使用が難しい薬剤には、乾姜や肉桂を加える必要があります。また、医案の中には薜立斉(せつりゅうさい)という組み合わせもあります。さらに、症状によっては附子や肉桂を少量加え、升麻や柴胡を使用します。これらの薬剤はどちらも火を忌むべきですが、炒って使用します。これは正伝惑問の説明です。
また、升麻や柴胡を除き、桂姜を加えることもあります。李時珍も少量の附子を補薬に加えると、その効果が顕著であると述べています。虚弱な人の体温が上がらない症状には、薬の力を引き出すために一服に五釐か一分を加えるべきです。ただし、病状によって適切な量は異なります。健康な成人には向いていません。
「正伝惑問」とは
「正伝惑問」(しょうでんわくもん)は、古代中国の医学書である『黄帝内経』(こうていないきょう)の一部であり、『素問』(そんもん)という篇の中の一つです。『黄帝内経』は、中国の古典医学の根本文献であり、医学理論や治療法などが記されています。
この「正伝惑問」は、その中でも特に重要な部分の一つであり、医学的な基本原理や病理学、診断法、治療法などが詳細に説明されています。この篇では、体内の気の流れや臓器の機能、病気の原因や症状、治療法などについて探究されています。
『黄帝内経』は、古代中国の医学における基本的な理論や実践方法を集成したものであり、現代の東洋医学の基礎となっています。