養生訓326(第六巻 択医)
医術も亦(なお)、其(その)途(みち)多端(たたん)なりといへど、其要(そのよう)三あり。一には病論(びょうろん)、二には脈法(みゃくほう)、三には薬方(やくほう)、此三(そのさん)の事をよく知べし。運気(うんき)、経絡(けいらく)などもしるべしといへども、三要(さんよう)の次(つぎ)也。病論(びょうろん)は、内経(ないけい)を本とし、諸名医(しょめいい)の説を考ふべし。脈法(みやくほう)は、脈書数家(みゃくしょすうけ)を考ふべし。薬方(やくほう)は、本草を本として、ひろく諸方書(しょしょほうしょ)を見るべし。薬性(やくせい)にくはしからずんば、薬方(やくほう)を立がたくして、病に応ずべからず。又、食物の良否(りょうひ)をしらずんば、無病有病(むびょうゆうびょう)共に、保養(ほよう)にあやまり有べし。薬性(やくせい)、食性(しょくせい)、皆本草(ほんそう)に精(くわ)からずんば、知がたし。
養生訓(意訳)
医術は、病理、診断、治療の知識はもちろんですが、食物の良否などの知識を知らなければ、無病の時の保養や予防に誤りが出てくるでしょう。
通解
医術においても、その方法は多岐にわたりますが、その要点は三つあります。一つは病論、二つは脈法、三つは薬方です。これらの事柄をよく知る必要があります。運気や経絡なども理解する必要がありますが、これらは三要の次に位置します。病論では内経を基本とし、著名な医者たちの説を考慮するべきです。脈法では脈の書を数多く学ぶべきです。薬方では本草を基本とし、さまざまな方書を参考にするべきです。薬の性質を理解しなければ、適切な薬方を立案することができず、病に適切に対応できません。また、食物の良し悪しを知らなければ、病気の有無に関わらず、健康を維持することができません。薬の性質や食物の性質は、すべて本草学に精通していなければ理解することが難しいです。