養生訓314(第六巻 択医)
医を学ぶに、ふるき法をたづねて、ひろく学び、古方(こほう)を多く考ふべし。又、世(よ)の時運(じうん)を考(かんが)へ、人の強弱(きょうじゃく)をはかり、日本の土宜(どぎ)と民俗(みんぞく)の風気(ふうき)を知り、近古(きんこ)わが国(くに)先輩(せんぱい)の名医(めいい)の治(ち)せし跡(あと)をも考へて、治療を行ふべし。いにしへに本づき、今に宜(よろ)しくば、あやまりすくなかるべし。古法(こほう)をしらずして、今の宜(よろしき)に合(あわ)せんとするを鑿(うがつ)と云。古法(こほう)にかゝはりて、今の宜(よろしき)に合(あわ)ざるを泥(なずむ)と云。其(その)あやまり同じ。古(いにしえ)にくらく、今に通ぜずしては、医道(いどう)行(おこ)はるべからず。聖人(せいじん)も、故(ふるき)を温(たず)ね新(あたわしき)を知(しる)以(もっ)て師(し)とすべし、と、のたまへり。医師も亦(また)かくの如くなるべし。
養生訓(意訳)
我、新しきを賢と思い、古の知恵を疎かにしてはいけません。聖人も「温故知新」と云っています。医者も同じです。
通解
医学を学ぶには、古い方法や古典を追求し、広く学び、古くからの治療法を多く考えるべきです。また、時代の流れや人々の強さや弱さを考慮し、日本の土地に適した治療法や民俗の風習を知り、近世から古代までの名医たちが行った治療方法も考慮すべきです。古い方法も学ぶところも多いです。
逆に古い方法に固執して現代の適切な方法を無視することも問題です。聖人たちも古い知識を尊重し、新しい知識を取り入れて師としています。今の医師も同じようになるべきです。