養生訓310(第六巻 択医)
医となる人は、まづ、志(こころざし)を立て、ひろく人をすくひ助くるに、まことの心をむねとし、病人の貴賎(きせん)によらず、治(ち)をほどこすべし。是医(これい)となる人の本意(ほんい)也。其(その)道明らかに、術(じゅつ)くはしくなれば、われより、しゐ(い)て人にてらひ、世に求めざれども、おのづから人にかしづき用られて、さいはいを得(え)る事、かぎりなかるべし。もし只(ただ)、わが利養(りよう)を求るがためのみにて、人をすくふ志(こころざし)なくば、仁術(にんじゅつ)の本意をうしなひて、天道(てんどう)、神明(じんめい)の冥加(みょうが)あるべからず。
養生訓(意訳)
医者となる人は、まず、志が第一です。人のためにをむねとし、病人に差別をつけてはなりません。もし、己の栄達や財に固執すれば天の加護はありません。天の加護なきは財と名声を得ても幸福にはなりえません。
通解
医者になる人は、まず志を立て、多くの人を救い助けるために、真心を持ち、病人の身分や地位に関係なく治療を行うべきです。これが医者となる人の本意です。その道が明確で技術が磨かれると、自分自身が宣伝せずとも、自然に人々に求められて用いられ、幸福を得ることができます。ただし、自分の利益や生計を求めるためだけに医者になり、人々を救おうとする志がない場合は、仁術の本意を失い、天の道や神々の恩寵を受けることはできません。