養生訓311(第六巻 択医)
日本の医(い)の中華に及ばざるは、まづ学問のつとめ、中華(ちゅうか)の人に及ばざれば也。ことに近世(きんせ)は国字(こくじ)の方書(ほうしょ)多く世に刊行(そうかん)せり。古学(こがく)を好まざる医生(いせい)は、からの書(しょ)はむづかしければ、きらひてよまず。かな書の書をよんで、医の道(みち)是(これ)にて事足りぬと思ひ、古(いにしえ)の道をまなばず。是(これ)日本の医の医道(いどう)にくらくして、つたなきゆへなり。むかしの伊路波(いろは)の国字(かな)いできて、世俗(せぞく)すべて文盲(ぶんもう)になれるが如し。
養生訓(意訳)
医学は、外国の物であっても、自分より優れていると思うものはどんどん取り入れて、それを自分の成長の糧にすべきです。
通解
日本の医学が中国に及ばないのは、まず学問の努力が足りないためであり、中国の人々に追いつくことができていないからです。特に近代では、国字の医書が多く出版されています。しかし、古典的な学問を好まない医師は、古い書物が難解であるために避けて読まないことがあります。かな書きの書物を読んで、医学の道がこれで十分だと考え、古い知識を学ぶことを怠っています。これにより、日本の医学の水準は低くなっています。昔の「いろは」のように国字が普及し、一般の人々は文字を読むことができなくなる状態と同様です。