養生訓285(第六巻 慎病)
居所(きょしょ)、寝屋(しんしつ)は、つねに風寒暑湿(ふうかんしょしつ)の邪気(じゃき)をふせぐべし。風寒暑は人の身をやぶる事、はげしくて早し。湿は人の身をやぶる事おそくして深し。故に風寒暑は人おそれやすし。湿気(しっき)は人おそれず。人にあたる事ふかし。故に久しくしていえず。湿(しつ)ある所を、早く遠ざかるべし。山の岸(きし)近き所を、遠ざかるべし。又、土あさく、水近く、床ひきゝ処(ところ)に、坐臥(ざふ)すべからず。床を高くし、床の下の壁にまどを開きて、気を通ずべし。新(あらた)にぬりたる壁に近づきて、坐臥(ざふ)すべからず。湿にあたりて病となりて、いえがたし。或(あるいは)疫病をうれふ。おそるべし。文禄(ぶんろく)の朝鮮軍に、戦死の人はすくなく、疫死(えきし)多かりしは、陣屋(じんや)ひきく、まばらにして、士卒(しそく)、寒湿(かんしつ)にあたりし故也(ゆえなり)とぞ。居所(おりどころ)も寝屋(おもや)も、高くかはける所よし。是皆、外湿をふせぐなり。一たび湿にあたればいえがたし。おそるべし。又、酒茶湯水(しゅちゃゆすい)を多くのまず、瓜、菓、冷麪(ひやむぎ)を多く食(くら)はざるは、是皆、内湿をふせぐなり。夏月(かげつ)、冷水(れいすい)を多くのみ、冷麪(ひやむぎ)をしばしば食すれば、必(かならず)内湿にやぶられ、痰瘧(たんぎゃく)、泄痢(せっり)をうれふ。つゝしむべし。
養生訓(意訳)
リビングや寝室は、陽当たりが良く、風通しも良い方が良いでしょう。また、湿気には注意しましょう。湿気は、風寒暑に比べ、感じにくいですが、その分、長い期間に渡り、身体に深く影響します。
通解
居住地や寝室は、常に風や寒さ、暑さ、湿気などの外部の有害な気を避けるようにしましょう。風、寒さ、暑さは人の体にすぐに影響を与え、強烈で早いですが、湿気は遅くて深刻な問題となることがあります。そのため、風や寒さ、暑さには敏感になり、湿気には注意を怠らないようにしましょう。
湿気が多い場所には滞在しないようにしましょう。山のふもとや湖畔など水辺には座ったり寝たりしないでください。床を高くし、床下の壁に窓を設けて通気を良くし、新しく塗装された壁に近づかないようにしましょう。湿気にさらされると健康を害する可能性があるため、これらの対策が重要です。
また、酒や茶、湯、水を過剰に摂取し、瓜や甘い菓子、冷たい麺を避けることは、内部の湿気を防ぐのに役立ちます。夏には冷水を多く摂取し、冷たい麺を頻繁に食べることで、内部の湿気が排除され、痰や瘧(マラリア)、下痢などを予防できます。適度な食事と飲み物の摂取に注意しましょう。
気づき
この文は、風寒暑湿は健康に悪影響を及ぼす要素とされ、湿気による病気のリスクや外部・内部の湿気対策について記述されています。特に、居所(きょしょ)や寝屋(しんしつ)は、常に風寒暑湿に注意が必要と述べられています。