養生訓275(巻第五 湯浴)
沐浴(もくよく)して風にあたるべからず。風にあはゞ、はやく手を以(もって)、皮膚をなでするべし。女人(にょにん)、経水(けいすい)来(きた)る時、頭を洗ふべからず。温泉は、諸州(しょしゅう)に多し。入浴(にゅうよく)して宜(よろ)しき症(しょう)あり。あしき症(しょう)あり。よくもなく、あしくもなき症有。凡(およそ)此(この)三症(さんしょう)有。よくゑ(え)らんで浴すべし。湯治(とうじ)してよき病症(びょうしょう)は、外症(がいしょう)なり。打身(うちみ)の症、落馬したる病(やまい)、高き所より落て痛める症、疥癬(かいせん)など皮膚の病、金瘡(きんそう)、はれ物の久しく癒(いえ)がたき症、およそ外病(がいびょう)には神効(しんこう)あり。又、中風(ちゅうふう)、筋(すじ)引つり、しゞまり、手足しびれ、なゑ(え)たる症によし。内症(ないしょう)には相応(あいおう)せず。されども気鬱(きうつ)、不食(ふしょく)、積滞(しゃくたい)、気血不順(きけつふじゅん)など、凡(およそ)虚寒(きょかん)の病症(びょうしょう)は、湯に入(いり)あたためて、気めぐりて宜(よろ)しき事あり。外症の速(すみやか)に効(しるし)あるにはしかず、かろく浴すべし。又、入浴して益もなく害もなき症多し。是は入浴すべからず。又、入浴して大(おおいに)に害ある病症(びょうしょう)あり。ことに汗症(かんしょう)、虚労(きょろう)、熱症(ねつしょう)に尤(もっとも)いむ。妄(みだり)に入浴すべからず。湯治(とうじ)して相応(あいおう)せず、他病(たびょう)おこり、死せし人多し。慎(つつ)しむべし。此理(このり)をしらざる人、湯治(とうじ)は一切の病によしとおもふは、大(おおい)なるあやまり也。本草(ほんぞう)の陳蔵器(ちんぞうき)の説(せつ)、考みるべし。病治(とうじ)の事をよくとけり。凡(およそ)入浴せば実症(じっしょう)の病者(びょうじゃ)も、一日に三度より多きをいむ。虚人(きょじん)は一両度(いちりょうど)なるべし。日の長短(ちょうたん)にもよるべし。しげく浴する事、甚(はなはだ)いむ。つよき人も湯中に入(り)て、身をあたため過すべからず。はたにこしかけて、湯を杓(ひしゃく)にてそそぐべし。久しからずして、早くやむべし。あたため過(すご)し、汗を出すべからず。大にいむ。毎日かろく浴し、早くやむべし。日数は七日二十七日なるべし。是を俗に一廻(ひとえ)二廻(ふたえ)と云。温泉をのむべからず。毒あり。金瘡(きんそう)の治(じ)のため、湯浴(ゆあみ)してきず癒(いえ)んとす。然(しか)るに温泉の相応(あいおう)せるを悦(よろこ)んで飲まば、いよいよ早くいえんとおもひて、のんだりしが、疵(きず)、大(おおいに)にやぶれて死せり。
養生訓(意訳)
温泉は、自分の症状によって選んだほうが良いです。その温泉によって、効能がある場合と無い場合があります。
通解
沐浴後、風に当たるべきではありません。風に当たってしまった場合、早く手を使って皮膚をこするべきです。女性が月経中に頭を洗うべきではありません。温泉は各地に多く存在し、入浴によって良い効果がある疾患もありますが、適切でない入浴は害をもたらすこともあります。湯治は外部の病状に対して有効であり、急性の外傷、落馬による怪我、高所からの落下による損傷、皮膚の病気(例:金瘡、はれ物)、これらは湯浴みに適しています。しかし、内部の問題には湯浴みが適さないことがあります。例えば、中風、筋肉のけいれん、しびれ、吐き気などは、湯浴みが有効ではありません。湯浴みによって助けられるのは外部の問題で、内部の問題には適していません。したがって、湯治に適した疾患と適さない疾患があります。湯治は慎重に行うべきであり、医師のアドバイスに従うべきです。沐浴を頻繁に行うことは避けるべきで、特に強い体力を持つ人でも湯浴みに過度に入ることは控えるべきです。湯につかる際は、杓で湯を掛けるなど、湯温を調整して適度な温度にすることが大切です。湯につかりすぎず、身体を適度に温めた後、早く湯から出るべきです。湯浴みは最大で1回から2回までとし、毎日行うべきではありません。通常、湯治は7日間または27日間などの特定の期間に行われます。温泉水を飲むことは避けるべきで、毒性があることがあります。金瘡の治療のために湯につかり、傷を早く癒そうとして、湯を飲んだ結果、傷口が悪化して死亡する事例があるため、慎重に行動すべきです。
気づき
湯治についての記述ですね。現代の医学との差異があるようですが、参考にしたい所もありますね。