養生訓273(巻第五 湯浴)
うゑ(え)ては浴すべからず。飽(あき)ては沐(かみあら)ふべからず。浴場(よくじょう)の盥(たらい)の寸尺(すんしゃく)の法、曲尺(かねじゃく)にて竪(たて)の長(ながさ)二尺九寸(にしゃくきゅうすん)、横のわたり二尺(にしゃく)。右(みぎ)、何(いずれ)もめぐりの板より内の寸(すん)なり。ふかさ一尺三寸四分(いっしゃくさんずんよんぶ)、めぐりの板あつさ六分(ろくぶ)、底(そこ)は猶(なお)あつきがよし。ふたありてよし。皆、杉の板を用(もちい)ゆ。寒月(かんげつ)は、上(うえ)とめぐりに風をふせぐかこみあるべし。盤(たらい)浅ければ風に感じやすく、冬はさむし。夏も盤(たらい)浅ければ、湯あふれ出てあしし。湯は、冬もふかさ六寸(ろくすん)にすぐべからず。夏はいよいよあさかるべし。世俗(せぞく)に、水(みず)風炉(ふろ)とて、大桶(おおおけ)の傍(かたわら)に銅炉(どうろ)をくりはめて、桶(おけ)に水ふかく入(いれ)て、火をたき、湯をわかして浴(よく)す。水ふかく、湯(ゆ)熱きは、身を温(あたた)め過(すご)し、汗(あせ)を発し、気を上(のぼら)せへらす。大(おおい)に害(がい)有(あり)。別の大釜(おおがま)にて湯をわかして入れ、湯あさくして、熱からざるに入り、早く浴(よく)しやめて、あたゝめ過(すご)さゞれば害なし。桶(おけ)を出(いでず)んとする時、もし湯ぬるくして、身あたゝまらずば、くりはめたる炉(ろ)に、火を少したきてよし。湯あつくならんとせば、早く火を去(さる)べし。此如(かくのごとく)すれば害なし。
養生訓(意訳)
長湯で身体を温め過ぎ、汗が多く出過ぎると気を減らし身体に良くないでしょう。
通解
寒さからくる寒冷感から身を守るために、浴びた後すぐに湯に浸からないようにしましょう。また、食事を終えた直後にはすぐに頭を洗ってはいけません。浴場の桶のサイズは、曲尺によって定められています。縦の長さは2尺9寸、横の幅は2尺で、内寸は板の厚さを差し引いた寸法です。深さは1尺3寸4分で、周りの板は6分の厚さです。底には蓋がついていることが良いです。これらの桶はすべて杉の板で作られたものが良いです。
寒い季節には、浴槽の上部と周囲に風よけを設けるべきです。浴槽が浅いと風を感じやすく、冬は寒く、夏でも湯があふれやすくなります。冬でも深さ6寸に保つべきで、夏はより浅い方が良いです。一般的に、水風呂と呼ばれる浴槽では、大きな桶の横に銅の炉を埋め込み、桶にたくさんの水を入れ、火を点けて温め、お湯にしてから入浴します。しかし、水温が高いと体を過度に温め、汗をかきすぎ、体調を乱すことがあります。代わりに、別の大釜でお湯を温め、温度を調整してから入浴し、早く浴びて温まりすぎないようにしましょう。浴槽から出る際に、もし湯が冷たくて体が冷えない場合は、炉に火を少し入れて温めるか、湯温を保つために火を早く取り除くべきです。これらのことに気をつけることで、入浴の際に体に害を及ぼすことを避けることができます。