養生訓234(巻第四 慎色欲)

男女交接(だんじょこうせつ)の期(き)は、孫思邈(そんしばく)が千金方(せんきんほう)曰(いわく)。「人、年二十者(にじゅうよんしゃ)は四日に一たび泄(もら)す。三十者は八日(ようか)に一たび泄(もら)す。四十者、十六日に一たび泄(もら)す。五十者、二十日に泄(もら)す。六十者は精をとぢてもらさず。もし体力さかんならば、一月に一たび泄す。気力すぐれて盛(さかん)なる人、慾念(よくねん)をおさへ、こらへて、久しく泄(もら)さざれば、腫物(はれもの)を生ず。六十を過(すぎ)て慾念おこらずば、とぢてもらすべからず。わかくさかんなる人も、もし能(よ)く忍びて、一月に二度もらして、慾念(よくねん)おこらずば長生(ちょうせい)なるべし」今案ずるに、千金方(せんきんぽう)にいへるは、平人(へいじん)の大法(たいほう)なり。もし性虚弱(せいきょじゃく)の人、食(しょく)すくなく力よはき人は、此期(このきに)にかかはらず、精気をおしみて交接(こうせつ)まれなるべし。色慾の方に心うつれば、あしき事くせになりてやまず。法外(ほうがい)のありさま、はづべし。つひに身を失(うしな)ふにいたる。つつしむべし。右(みぎ)、千金方に、二十歳以前をいはざるに意(こころ)あるべし。二十以前、血気(けっき)生発(せいはつ)して、いまだ堅固(けんご)ならず、此時(このとき)しばしばもらせば、発生(はっせい)の気を損じて、一生の根本(こんぽん)よはくなる。