養生訓84(巻第二総論下)
山中(さんちゅう)の人は多くはいのちながし。古書(こしょ)にも山気(さんき)は寿(じゅ)多しと云、又寒気(かんき)は寿(じゅ)ともいへり。山中はさむくして、人身の元気をとぢかためて、内にたもちてもらさず。
故に命ながし。暖(あたたかく)なる地は元気もれて、内(うち)にたもつ事すくなくして、命みじかし。
又、山中の人は人のまじはりすくなく、しづかにして元気をへらさず、萬(よろず)ともしく不自由なる故、おのづから欲すくなし。
殊に魚類(ぎょるい)まれにして肉にあかず。是山中の人、命ながき故なり。市中(しちゅう)にありて人に多くまじはり、事しげければ気へる。
海辺(かいへん)の人、魚肉をつねに多くくらふゆえ、病おほくして命みじかし。
市中にをり海辺(かいへん)に居ても、慾をすくなくし、肉食(にくしょく)をすくなくせば害なかるべし。
意訳
里山で暮らしている人は長生きの人が多いです。自然が相手なので人間関係の「わずらずしさ」が少なく、生活は便利ではありませんが、それが良いのかも知れません。
通解
山中に住む人々は多くが長寿を享受しています。古典にも「山気は寿をもたらす」と言われ、また「寒気も寿をもたらす」とも言われています。山中は寒く、人々の身体の元気を保ち、内部に保持する特性があります。そのため、寿命が延びるのです。一方で暖かい地域では元気が逃げやすく、内部で保持することが難しいため寿命が短くなります。
山中に住む人々は他人の干渉が少なく、静かに暮らすことで元気を保ち、不自由な状況のために自然と欲望が少なくなります。特に肉類の摂取が少なく、魚を中心とした食生活を送ることで、寿命が延びるのです。市街地に住むと人々との関わりが多く、騒がしい生活が気を乱しやすく、海辺に住むと魚肉を多く摂取するため、病気が増えて寿命が短くなることがあります。しかし、市中に住んでいる者でも海辺に住んでいる者でも、欲望を抑え、肉の摂取を控えることで健康を害することはありません。
気づき
最近、キャンプの情報や山で暮らす特集などがマスコミでも取り上げられています。そして、森林セラピーなど健康にも良いそうです。不便でも慣れれば、それは、それで楽しいのかも知れませんね。