養生訓267(巻第五 五官)
瓦火桶(かわらひおけ)と云物(いうもの)、京都に多し。桐火桶(きりひおけ)の製(せい)に似(に)て大(だい)なり。瓦(かわら)にて作る。高さ五寸四分(ごすんよんぶ)、足は此(この)外(ほか)也(なり)。縦のわたり八寸三分(はっすんさんぶ)、横のわたり七寸(ななすん)、縦横(たてよこ)少(すこし)長短(ちょうたん)あるべし。或(あるいは)形まるくして、縦横(たてよこ)なきもよし。上(うえ)の形(かた)まるき事、桐火桶(きりひおけ)のごとし。めぐりに、すかしまどありて、火気(かき)をもらすべし。上に口あり、ふたあり。ふたの広さ、よこ三寸(さんすん)、たて三寸余(さんすんよ)なるべし。まるきもよし。ふたに取手(とって)あり。ふた二三(にさん)の内、一(ひとつ)は取手なきがよし。やはらかなる灰(はい)を入置(いれおき)、用(もち)ゐ(い)んとする時、宵(よい)より小(しょう)なる炭火を二三入(いれ)て臥(ふ)さむとする前より、早く衾(ふすま)の下に置(お)き、ふして後、足をのべてあたゝむべし。上気(じょうき)する人は、早く遠(とお)ざくべし。足あたゝまらば火桶(ひおけ)を足にてふみ退(の)け、足を引(ひ)てかゞめふすべし。翌朝おきんとする時、又(また)足をのべてあたたむべし。又、ふたの熱きを木綿袋(もめんぶくろ)に入(いれ)て、腹と腰をあたゝむ。ふた二三(にさん)こしらへ置(お)き、とりかへて腹、腰をあたゝむべし。取手(とって)なきふたを以(おい)ては、こしをあたゝむ。こしの下にしくべし。温石(おんじゃく)より速(すみやか)に熱(あつ)くなりて自由なり。急用(きゅうよう)に備(そな)ふべし。腹中(ふくちゅう)の食滞気滞(しょくたいきたい)をめぐらして、消化しやすき事、温石(おんじゃく)并(ならびに)薬石(やくせき)よりはやし。甚(はなはだ)要用(ようよう)の物なり。此事(このこと)しれる人すくなし。
養生訓(意訳)
お腹や腰を暖めることは、消化を助け、健康に良いでしょう。
通解
瓦火桶と呼ばれるものは、京都でよく見られる物品です。桐火桶と似たような製法で、瓦で作られています。高さは5寸4分程度で、足はこれより外に出ないようにします。縦の幅は8寸3分、横の幅は7寸ほどで、縦横に多少の差異があるべきです。形は円形にすることもありますし、縦横が均等でない場合もあります。上部にすかし窓があり、火を点ける際に使います。また、上部に口があり、蓋もあります。蓋の幅は横3寸、縦3寸余りほどで、円形にしても構いません。蓋には取っ手がついていますが、蓋のうち1つは取っ手のないものが良いです。中に柔らかい灰を入れ、使用する際には、夜から小さな炭火を2〜3個入れて床の下に置き、寝る前に足を伸ばして暖を取ります。上気がある場合は、すぐに遠ざけるべきです。足が暖かくなったら、火桶を足で押しのけて、足を引っ込めて床に腰掛けることができます。翌朝、起きる前に再び足を伸ばして温めるべきです。また、熱い蓋を木綿袋に入れて腹や腰に当てることもできます。取っ手のない蓋は、腰に当てるのに適しています。腰の下に置くことが大切です。温石よりも速く熱くなり、便利です。急用に備えておくべきで、胃の不快感や気持ちの滞りを解消し、消化を助けるのに役立ちます。しかし、このことを知っている人は少ないです。