養生訓39(巻第一総論上)
「人の身のわざ多し。その事をつとむるみちを術(じゅつ) と云(いう)。
萬(よろず)のわざ、つとめならふべき術あり。
其術(そのじゅつ)をしらざれば、其(その)事をなしがたし。
其内(そのうち)いたりて小にて、いやしき芸能(げいのう)も、皆(みな)其術をまなばず、其(この)わざをならはざれば、其事をなし得がたし。
たとへば、蓑(みの)をつくり、笠(かさ)をはるは至(いた)りてやすく、いやしき小(しょう)なるわざ也といへども、其術をならはざれば、つくりがたし。」
「いはんや、人の身は天地とならんで三才(さんざい)とす。
かく貴(とう)とき身を養(やしな)ひ、いのちをたもつて長生(ちょうせい)するは、至(いた)りて大事なり。
其術(そのじゅつ)なくんばあるべからず。
其術をまなばず、其事をならはずしては、などかなし得(え)んや」
意訳
世の中には、様々な技術があります。何をするにしてもその技術を学ばなければなりません。
例えば、蓑一つ織るにしても最初に教えてもらわないと織れません。
同じように長生きにも技術があります。この技術を学ぶ必要があります。
通解
人の身にはさまざまなことを成し遂げるための術があります。この個々に術があり、それを学ばなければそのことを行うことは難しいでしょう。
身の周りにはさまざまな小さな技能や芸能が存在しますが、それらもすべてその術を学ぶことによって成し遂げられます。たとえば、蓑や笠を作ったりすることは至極簡単なことに見えますが、その術を知らなければ作ることは難しいでしょう。
人身は天地と調和しており、その尊い存在を長寿するためには適切に身を養い生命を保つことが非常に重要です。そのためには、その術を学ぶことが必要です。術を学ばずに事を行ったり、そのことを成し遂げることは困難です。ですから、その術を学ぶことなくしてはなりません。その術を学び、そのことを実践することが大切であると言えます。