養生訓374(巻第八 養老)

老人の保養は、常に元気をおしみて、へらすべからず。気息(きそく)を静(しずか)にして、あらくすべからず。言語(げんぎょ)をゆるやかにして、早くせず。言(ことば)すくなくし、起居行歩(きここうほ)をも、しづかにすべし。言語あらゝかに、口ばやく声高く、颺(よう)言(げん)すべからず。怒(いかり)なく、うれひなく、過(す)ぎ去(さり)たる人の過(あやまち)を、とがむべからず。我が過を、しきりに悔(く)ゆべからず。人の無礼なる横(おう)逆(ぎゃく)を、いかり、うらむべからず。是皆、老人養生の道なり。又、老人の徳行(とつこう)のつゝしみなり。老ては気すくなし。気をへらす事をいむべし。第一、いかるべからず。うれひ、かなしみ、なき、なげくべからず。喪葬(そうそう)の事にあづからしむべからず。死を、とぶらふべからず。思ひを過すべからず。尤(もっとも)多言をいむ。口、はやく物云(いう)べからず。高く物いひ、高くわらひ、高く、うたふべからず。道を遠く行(いく)くべからず。重き物をあぐべからず。是皆、気をへらさずして、気をおしむなり。