養生訓390
諸香(しょこう)の鼻を養(やしな)ふ事、五味(ごみ)の口を養ふがごとし。諸香(しょこう)は、是を、かげば生気(せいき)をたすけ、邪気(じゃき)をはらひ、悪臭(あくしゅう)をけし、けがれをさり、神明(しんめい)に通ず。いとまありて、静室(せいしつ)に坐(ざ)して、香(こう)をたきて黙坐(もくざ)するは、雅趣(がしゅ)をたすけて心を養ふべし。是(これ)亦(また)、養生の一端なり。香(こう)に四品(よんひん)あり。たき香(こう)あり、掛香(かけこう)あり、食香(しょくこう)あり、貼(つけ)香(こう)あり。たき香(こう)とは、あはせ、たきものゝ事也。からの書に百和香(ひやつわこう)と云。日本にも、古今和歌集(こきんわかしゅう)の物(もの)の名(な)に百和香(ひゃくわこう)をよめり。かけ香(こう)とは、かほり袋、にほひの玉などを云。貼香(つけこう)とは、花の露(つゆ)、兵部卿(ひょうぶきょう)など云類(いうるい)の、身につくる香(こう)也。食香(しょくこう)とは、食(しょく)して香(かおり)よき物、透頂香(とうちんこう)、香茶餅(こうちゃべい)、団茶(だんちゃ)など云物(いうもの)の事也。
養生訓(意訳)
良い香りは、生気を助け、邪気を払い、悪臭を消し、けがれを除きます。暇がある時に、静かな部屋で香を焚いて、黙座すると心が落ち着きます。これも養生の道の一つです。
通解
諸香を楽しむことは、五味を楽しむことと同様です。諸香は、生気を助け、邪気を払い、悪臭を取り除き、不純物を清め、神聖さを感じさせます。静かな部屋に座って香をたき、黙坐することは、雅趣を味わいながら心を養うことです。これもまた養生の一つです。香には四つの種類があります。たき香は、線香や薫物のことを指します。からの書には「百和香」と言います。日本でも古今和歌集に「百和香」という言葉が見られます。掛香は香り袋や香玉などのことを指します。貼香は花の露や兵部卿など身につける香のことです。食香は食べて香りの良い物、透頂香や香茶餅、団茶などを指します。

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