養生訓365(巻第七 用薬)
東垣(とうえん)が曰(いわ)く、細末(さいまつ)の薬は経絡(けいろ)にめぐらず。只(ただ)、胃中臓腑(いちゅうぞうふ)の積(せき)を去(さ)る。下部(かぶ)の病には、大丸(だいがん)を用(もち)ゆ。中焦(ちゅうしょう)の病は之に次(つ)ぐ。上焦(じょうしょう)を治(ち)するには極めて小丸(しょうがん)にす。うすき糊(のり)にて丸(がん)ずるは、化(か)しやすきに取(と)る。こき糊(のり)にて丸(がん)ずるは、おそく化(か)して、中下焦(ちゅうげしょう)に至(いた)る。丸薬(まるがん)、上焦(じょうしょう)の病には、細(こまか)にして、やはらかに早く化(か)しやすきがよし。中焦(ちゅうしょう)の薬は小丸(しょうがん)にして堅(かた)かるべし。下焦(かしょう)の薬は大丸(だいがん)にして堅(かた)きがよし。是、頤生微論(いせいびろん)の説(せつ)也。又、湯(ゆ)は久(ひさし)き病に用(もち) ゆ。散は急なる病に用ゆ。丸(がん)はゆるやかなる病に用る事、東垣(とうえん)が珍珠嚢(ちんしゅのう)に見えたり。
養生訓(意訳)
自分が服する薬については、用法、効能をしっかり理解し、自分の体調や病状に合ったものを用いたが方が良いでしょう。
通解
東垣は述べていますが、細かい粉末の薬は経絡を巡らず、ただ胃腸内の積み物を除去するだけです。下部の病気には大きな丸薬を使用します。中焦の病気にはその次に小さな丸薬を使用します。上焦を治療するには非常に小さな丸薬にします。薄い糊で丸めると、速やかに効果が現れやすいです。濃い糊で丸めると、効果が遅くなり、中下焦に作用します。丸薬は、上焦の病気には細かくて柔らかいものが早く効果を発揮します。中焦の薬は小さな丸薬で固く作られるべきです。下焦の薬は大きな丸薬で固く作られるべきです。これは『頤生微論』の説明です。また、湯は長期の病気に使用し、散は急性の病気に使用します。丸薬は緩やかな病気に使用されることがあり、東垣はそれを「珍珠嚢」と形容しました。